『abさんご』黒田 夏子

母と娘の緊張感に満ちた一生の関係を、子視点で書く中編。子供のみずみずしさと幼いがゆえの不器用さ、そして子供だった過去を振り返る自分の老いの両方を備えていて、豊かな読書体験でした。広い時空が緩やかに重層に、でもこの一つの世界でだけ流れるのを、障子越しに見るような。

で、その印象に寄与するのが、もう唯一無二の特徴である、「横書き+ひらがな多用」の独特の文体。ひらがな多用が明らかに意図的で、意味のアクセント、文面のアクセント、音のアクセント、なんかいろいろありそうで、読み方を操作される。

読みにくそうで手が出なかった本だったんですが、青白い炎読みきったこの流れならいける!ってことで。
もともとwebで公開されてるお試し読み読んでみたら、あっいけるなと思って面白かったので、読みたかったけど、文庫で手に取るウッってくる横書き日本語。横書き日本語の文庫版組みってとても珍しい本で、英語一問一答みたいな文庫サイズ参考書除くと後は対訳ホイットマン詩集(岩波)くらいしか知らない… 。文芸作品の意味密度ある日本語で横組という体裁が見慣れなさ過ぎ。何の因果か去年2件くらい横組み文庫本の話したことがあって、横組み選ばざるをえない文体について語ったりしてたので、もうこれ読んでみないと。
ノドが狭い・・・

横書き+印象的なところでひらがなに開く語彙選択が、英語文章読んでるように、ちょっと読んでから前に戻って係り結びを確認みたいなことして、不思議な目の動きの読み方しました。意味が入ってくる時間ラグが、古文とか英語みたいな感覚で、異界感がすごくある。
体裁にばっかりつい字数を重ねてしまうんですが、内容もいい本です。

だが、私はabさんごしか読まなかった… 併録のやつは、ちょっと長くてもういいかなって… abさんごは甘く切ない記憶で、もう書に淫するというかインするというか、耽溺するための内容と文章がハマったかんじでした。