プロメア 何がだめなのって感想

探せばぴったりの意見ありそうだけど、頭の体操と体力維持のために今更ですが感想書いときます。

皆さんご存じの通り、私の趣味は、「デスレース」って名前がついてる映画は必ず観ている(デスレース2000、デスレース、デスレース2050、デスレース3、デスレース(原題:戦闘機対戦車))とか悪い趣味なんで、プロメアはどう見てもどストライクで偏愛してそうな作品。公開当時、映画館にフラッと入ったとき、アラジン・プロメア・ゴジラピカチュウ探偵しか視界に入って無くて、怪獣4DX選んで脳をバターにして出てきた大人です。キングオブモンスターズは名作。3歳児向け。プロメアはもうちょっと対象年齢が上かな。

 

そうなのよ。
なんとな~~~く、なんとな~~~くプロメアはだめそうなかんじがして、見てなかったんだけど、ロックユーの音楽映画見たいなーってて馬上槍試合映画のロックユー流してたらボヘミアンラプソディの尼プラ配信が終わってしまったので、夜中にぼーっと流してしまいました。
絵は本当に素晴らしくて、色も形もスピードも音もめちゃくちゃカッコよくて大画面で見たらすんごい気持ちいいだろねすっごい。そして有名俳優さんキャスティングが、言われなきゃ気がつかないくらいぴったりの声優してて皆さんめちゃ巧でした。

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好きそうでしょ、私が絶対好きそうなやつでしょ、しかもこのPVのクオリティがベスト編集じゃなくて、本編の映像もこのクオリティのまんまノンストップでした。冗談抜きでほんとにすっごいよ。中島かずきなんで当然脚本も巧いです。緩急スピードのコントロールに、ロジックもドラマも盛り上げるね~~って巧い。00年代はストーリー構造がカッチリ固まってるやつ流行ったけど、今はそれが破綻していることが瑕疵ではない時代になって久しいので、話が破綻してるとかそこはどうでもいいです。
コンテンツとしての強度は最強最硬な作りでほんとにすごかった。
けど、好きじゃなかったんですよこれ…トリガー作品好きだし、勢いのあるアニメはほんと大好きなんだけど。

 

まぁネタバレなんだけど、人間性とは何かってところで合意できるラインがアウトでした。
ダメにきまってんだろクソが。
フィクションが現実から重さを奪う。重さを奪うためにデフォルメを行った手は許しがたいものでした。なんか見た後に、やたらめったら怒ってしまった。

 


・迫害を受けていた炎のミュータントの力の源と炎を燃やして生きたいという意志は、宇宙生物(善悪ナシ)の影響だった。

SFはよく読むので、この人間性の根幹やハートフルの正体が実は単純な科学的な作用やくだらない理由でしかないってネタは、古今東西様々なパターンで味わってきてるんで、そこはダメってとこじゃないんですよ。イーガンの「しあわせの理由」で宗教心や崇高な高揚が化学物質の作用でしかないこと、スティーヴ・フィーヴァーで自由と独立への青春の意志みたいなもんが病原菌のせい~みたいな、人と機械と何が違うんだい? のディック然り、人間の動機や幸福といったものへの懐疑は、否とすることが自明の命題としてあります。
ここがダメなわけじゃない。むしろSFとしてSFだねっていいところでもある。中島かずきさん、『天の光はすべて星』の解説にいたりしたんでこういうの数知ってそうだし好きなんでしょう。

 

よくないのが、その動機を持つ彼らについて、自分ではどうしようもない理由で差別を受ける弱い立場として、観ている人に誤解しようもなく描かれてること。
描写がどうこうではなく、これが物語である以上、話の筋は抽象されてしてしまう。
差別を受ける側が矜持にしてることは、実はくだらないものだった。

っていう差別を受ける側を侮ることを、科学&事実っていう反論しようもない超強力な手段で正当化するとかいう絶対に許されん構造に。

僕の考えたストーリーって形を作るために現実から材料持ってくるのと、それが事実であろうとなかろうとイベント寄せ集めて意味を持たせてストーリーって構造作ることは表裏一体なので、マジ邪悪なことしたなこいつっていう。

差別する実際の行動に先行するものとして、差別の理由は創造される。差別って現実の順序と、あまりにも似通っててあかんですよこれは。作った人が差別的なムーブを行うって地獄。

 

宇宙生物は地球の中心にいて、その影響で地表に吹き出すマグマで世界破滅の危機が迫る。ミュータント狩りは、捕まえて装置につないで燃料にして地球を脱出するためだった。燃え尽きたミュータントは次々と苦しんで灰になりながら死んでいく。

 

 炎を出せるミュータントが苛烈な迫害を受ける世界。動力源として装置につながれて燃料にされる悪魔の研究が行われているっていうのも、SFで人権が無い状態っていうのは、それはNoっていう解を出すための設定でしかなく、迫害されるミュータントっていうのもフェティッシュに近いジャンル。悲壮でカッコいいもん。彼らの反乱が儚いもので消え去るところまで様式美。
けれども、本当にマズイのが、人が燃やされていく、人の灰っていうモチーフは、現実のこの世界においても、ホロコーストにおいて何があったかを端的に表す秀逸なコピーライティングとして世界で生きているのだ。コピーライトって言い方は悪いけど、人の印象を操作する本当に強大な言葉として歴史に先行して存在しているミーム。人間を貼り付けてコマみたいな回転させて火を搾り取るっていうコミカル表現して、そこまでヤバくならんだろっていう線引きの絵でも、人を燃やす炉をコミカルに書くという最悪印象は拭えなかった。お下劣や皮肉って態度は、悪を否定するために有効であるけれど、燃やされる側は悪ではないのにコミカルに描かれたらそりゃ。主観と客観が逆転しとる。

 


・主人公と迫害されていた側が協力した活躍で宇宙生物は去る。迫害の元になる発火能力も消滅する。

迫害の理由を消すな。なんで消すっていう態度が最悪なのかって、そこにはただ一人の正しい人間しか残ってない上に、残ったほうの正しさの担保が発生しちゃうじゃん。これが物語で、何かの現実を鏡にしてるなら、あれほどエヴァでアスカにキモいって言われたのに、まだ個人の差異がなくなれば万事解決っていう理屈が通用すると思ってんのか。
そしてこれは物語の結末だから、一番大事なことそれなのおー? って煽らざるをえない。
物語が終わると意味できちゃうねん。
お話なんてしょせん人がこねくり回して作るので、うまくできなかったってのは正直あってもしょうがないが、何千とお話書いてるプロ中のプロなので、技術に不足があるからこうなったんじゃなくて、これよしとして作った手が許しがたい。ふざけんなよ。

 

これを作った人は厭世ではなく、観た人をエンパワメントしたいっていう明るい意志があったのは疑うとこじゃない。元気にしようとしてくれる圧倒的エンタメ。物語なんて作品の一要素にしか過ぎないんだけど、現実ではとるにたらない小さな事を重大なこととして扱って価値を増幅させたり、とても立ち向かえないような巨大な悪や抱えきれないものを軽くして侮ることもできる、主観っていう言葉が適切かわからないけど、メッセージとかどう思うかってものが生まれる。生まれるんですよ。なかったものが。
そもそも、この物語は差別を解決する答えを提示するなんて動機で作られたものではないし、回答もこの世にはまだない。差別解決できたらノーベル人類皆救済賞だよってかんじ。

じゃぁ他のミュータント迫害先行作品はどのへんがOKラインだったんだよっていえば、否定され悲惨な運命に殉じる彼ら彼女らは救えずにそのまま死ぬとか幼稚な手法でも、死によって魂というものの存在を認めようとか、とにかく相いれない他者っていう現実にとりうる限界を描いてたからではないかと思います。

 

っていうか、こういうメジャーではないちょいカルトっぽい偏愛したい小品って、社会からはじかれたり、歪つで弱い方に寄り添う視点が当然だと思ってたところが裏切られてびっくりしたのかもしれません。


フォルムや時間、タイミング、それに音楽も気持ちよさを追求して本当にすごいし、気持ちよさ総合優勝のために、物語も超重いネタひっぱってスカーンと打ち上げてキモチイイイイイって解決できたらそれはもう最高に気持ちい作品だったでしょう…
問題がバカにも理解できるほど単純なすぐ解決できるやつでないのに問題解決しちゃったら、結果は単なる間違い以外の何者でもないので解決しなくてもよい、ってかしちゃだめだわね。