『アラバマ物語』ハーパー・リー, 菊池 重三郎

一番言いたいことは、すごく読み易かった面白い本だということです。

名作名作と聞くんで、岩波文庫かなと思ってたんですが、予想外に暮しの手帖社刊。つまり、大衆向けのとても読み易い小説で、小難しいところは無い面白い60年代ベストセラー。時代感じるこの装丁で2017年に新刊売ってるってのが驚き。

ってことを調べずに名作だから読んどくかみたいに読みだしたんで、読んでたらどんどん不安になるんですよ。まず、女児主人公の一人称で町の出来事を描くふつうの児童文学みたいだし、なんか他の本と間違えてないかとか。黒人差別は主要な事件だけれど、社会と個人、もっと卑近に人間関係についての話で、いろんな人がいるんだよっていうこと。
女児一人称という、アウトサイダーでありながら将来は社会に入ることが約束された安全な視界を設定したからこそ書ける理想と建前と、子供時代の終わりを自ら選択する現実の失望への扉。児童文学の体して、親から子へ啓蒙的な警句の羅列なのも、答えとして覚えておきやすいし、ノスタルジーの甘さも読み返したくなる。
文体も、題材も、一冊という限られた物理に集約した、善い物の思い出みたいな本でした。

で、
これと装丁も雰囲気もよく似本読んだことあって『ペイトンプレイス物語』っていう当時モノ大衆小説で大ベストセラーだけどマジ三文小説なんで今は忘れ去られてる本。なんで読んだかって、三文小説だっていう紹介だから読んだような気がするんですが、雰囲気とかソックリなんだけども、何がこういうの分けるんだろうなあ。

「50〜60年代に書かれた20〜30年代」っていうのが、ザ・アメリカとでもいう黄金の時代で、現代から1950年へのノスタルジアと、小説世界からの1920〜30の二重のノスタルジアで、ものすごく読みたいかんじの世界なんだろうなあと思います。ブラッドベリとかも。