『悪女について』有吉佐和子

昭和エンタメ小説でめっぽう読み易くて面白い。事故死が報じられた悪女について、インタビューに答える一人称連作で、悪女自身は最後まで出てこない。匠のエンタメで、露悪趣味からついつい読んじゃう…登場人物は男女年齢階級さまざま。
オホホホホのザーマス言葉使うっていうのはどんな奥様よ、とか土地バブルとか、昭和になってからの階級感覚とか伺えて面白かったです。

しっかし丈夫な女だな… とか思いながら読んでました。一に健康、二に健康。読み終わると、もんのすごい時代がかった「女流作家とは〜」みたいな当時モノの解説がついてきて、昭和のエンタメでした。今のポストトゥルースの時代に読んだからこそなんだけど、敗戦後っていう当時もきっと真実の価値ってすごくゆれてたんだろうなと思います。

『メディア・モンスター:誰が「黒川紀章」を殺したのか?』曲沼美恵

恥ずかしながら、30代の私は黒川紀章という名前を知りませんでした。都知事選出馬も覚えてなかった。
メディアに露出がすごく多かった建築家の人だそうで、中銀カプセルタワービルは老朽化のネットニュースで知ってる…くらいの前知識。読み始めたら建築の戦後史が一人の人間を中心にまとめられてて、面白い本でした。こんな、題材の面白さと筆力そろったいい本だと思ってなくて。文庫とかになるんじゃないかな。

人間の思想が現実になることがすごい。時代なのか、建築家という職業故なのか、とにかく実体になって、実世界を変えてしまう。それを実現するための、施工レベルの話も時代の産物雑学で面白い。建築家が考えた理想のビルのために、材料や公示方法、実際に使うための配水管や導線設計したり、法律申請するのはまた別!大変だあ〜
若い頃に、人類の一大夢の展示場大阪万博のパビリオン建築で有名になった後、壮年に受注したつくば万博は他建築家の都市計画ありきのものでもはや夢は飾り物に過ぎず、さらに平成の愛知博覧会では失注、万博というイベントそのものが社会のある時期にしか耐えない形式という社会の流れ・・・

欧州由来の建築観である権力者からの発注で永遠を目指したモニュメントから、人民が使用者で発注者になっていく建築自体の大きな歴史、永遠へのカウンターで更新し続けるというメタボリズム運動の黒川自身の建築観の変遷、日本の明治に輸入した建築技術からの発展、いろんな側面が書かれてて情報たっぷり、且つ、メディア露出多くてどこか山師のような人生重なって、歴史っていう俯瞰で見られてとても興味深い本でした。

『21世紀の貨幣論』 フェリックス マーティン  遠藤真美訳

欲の皮が突っ張ってるよな自己啓発っぽいタイトルですが、まあ私も金が欲しくて読んだんですが、お金というシステムの歴史雑学本で、えらい面白かったです。
冒頭の面白い話、産物が食べ物と唯一のぜいたく品のナマコくらいっていうヤップ島で使われてた石のお金フェイの話。
お金を払う行為は、どでかい石のお金をゴロゴロ転がして持って行くんじゃなくて、所有物が誰になったかを認めるだけ。だから、島に運ぶ途中で海底に沈んだ巨大な石のお金にも所有者がいて、誰かの家の庭に現物がある石のお金と同じように機能する。

お金が「古代の物々交換の代わりに、持ち運びやすい宝貝とか宝石とか金とか貴重なもので使われるようになった」って、そんな教科書に載ってるわかり易い話は実は誤りで、人類史のどこにもそんなことしてた証拠がなくて、逆にヤップ島みたいな単純な原始社会でも「他人に譲渡可能な債務」だったという話からスタート。この時点でもう面白いじゃん。銀行の発明とか1700年くらいだったり、決済や為替というシステムと国際間貿易の隆盛が同時だったり、お金観が原始から変遷しての金本位制だったりの後、不換紙幣の発明とかお金の機能が、いつ、どんな目的で発明されていったか、それによってどんな社会になったかの説明がセット。世界史のミシシップバブルなんて詐欺の面でしか知らなかったけど、世界初不換紙幣の使用という面もあって、そう簡単にわりきれるものではない、と。
ライター本で書き飛ばしてるかんじもなくて、世界史の出来事が、新しく見えてくる良書。

お金って、ある日人間社会に発明された社会的なシステムであって、それ自体に自然の絶対的な価値とがあるわけじゃない。
言われてみるまで疑ったことなかったほど、あまりにも今現在の社会の姿に不可欠だから、まるで自然の理だと思い込まれてしまってる。
お金は、人類に発明されてすぐに人間の欲望をものすごく刺激したものだけど、実は人間のいろんな側面の一つでしかないからミダス王の伝説だったり対立する点も思想も当然たくさんある。人の命を金に換算することも、しないことも、両方ともある。
懐疑の目から貨幣無しのシステム模索したり、大失敗したり、大失敗したりの歴史で今の社会の姿へいたる道。
スパルタが貨幣無しの社会で4世紀続くとか、ソ連も最初はお金無しで行こうとしたとか、へええ〜〜〜って。

面白かったなあ。
金が稼げないから自分には価値が無い、鬱々悩んでたけど、ちょっとさっぱりしました。あるに越したことはないんだけど。金はやっぱほしいけど。