『21世紀の貨幣論』 フェリックス マーティン  遠藤真美訳

欲の皮が突っ張ってるよな自己啓発っぽいタイトルですが、まあ私も金が欲しくて読んだんですが、お金というシステムの歴史雑学本で、えらい面白かったです。
冒頭の面白い話、産物が食べ物と唯一のぜいたく品のナマコくらいっていうヤップ島で使われてた石のお金フェイの話。
お金を払う行為は、どでかい石のお金をゴロゴロ転がして持って行くんじゃなくて、所有物が誰になったかを認めるだけ。だから、島に運ぶ途中で海底に沈んだ巨大な石のお金にも所有者がいて、誰かの家の庭に現物がある石のお金と同じように機能する。

お金が「古代の物々交換の代わりに、持ち運びやすい宝貝とか宝石とか金とか貴重なもので使われるようになった」って、そんな教科書に載ってるわかり易い話は実は誤りで、人類史のどこにもそんなことしてた証拠がなくて、逆にヤップ島みたいな単純な原始社会でも「他人に譲渡可能な債務」だったという話からスタート。この時点でもう面白いじゃん。銀行の発明とか1700年くらいだったり、決済や為替というシステムと国際間貿易の隆盛が同時だったり、お金観が原始から変遷しての金本位制だったりの後、不換紙幣の発明とかお金の機能が、いつ、どんな目的で発明されていったか、それによってどんな社会になったかの説明がセット。世界史のミシシップバブルなんて詐欺の面でしか知らなかったけど、世界初不換紙幣の使用という面もあって、そう簡単にわりきれるものではない、と。
ライター本で書き飛ばしてるかんじもなくて、世界史の出来事が、新しく見えてくる良書。

お金って、ある日人間社会に発明された社会的なシステムであって、それ自体に自然の絶対的な価値とがあるわけじゃない。
言われてみるまで疑ったことなかったほど、あまりにも今現在の社会の姿に不可欠だから、まるで自然の理だと思い込まれてしまってる。
お金は、人類に発明されてすぐに人間の欲望をものすごく刺激したものだけど、実は人間のいろんな側面の一つでしかないからミダス王の伝説だったり対立する点も思想も当然たくさんある。人の命を金に換算することも、しないことも、両方ともある。
懐疑の目から貨幣無しのシステム模索したり、大失敗したり、大失敗したりの歴史で今の社会の姿へいたる道。
スパルタが貨幣無しの社会で4世紀続くとか、ソ連も最初はお金無しで行こうとしたとか、へええ〜〜〜って。

面白かったなあ。
金が稼げないから自分には価値が無い、鬱々悩んでたけど、ちょっとさっぱりしました。あるに越したことはないんだけど。金はやっぱほしいけど。