『動物のいのち』J.M.クッツェー

「動物の命」の価値判断をめぐる実験小説。実験と呼んでも差し支えはないでしょう。講演+それについての解説なので非常に読みやすいです。その講演が、虚構の作家の虚構の講演っていう小説なので、枠とかメタフィクションが好きな人にもオススメ。
動物はなぜ対等の隣人ではないのか、人より劣るから殺していいのか、価値を置くとしたらそれは人間の魂との対照との上でなのか、なぜ殺すことが悪なのか・・・どこが論点になるのかっていうことを詰め込んであり、解説が丁寧なこともあって価値判断の細やかなグラデーションに目が向けられて良い経験でした。
異種間戦争モノが人間の対立を誇張するメタファーに堕し、人間関係を表現する手法として無批判に使われるっつったって、「はやくにんげんになりたい」がかなえられなかった祈りであり、人間の規範に従うことが幸福につながらないっていう、おきまりの展開も同時にあるわけで、オタクのファンタジーの中でも扱いきれないのかもしれませんね。やや強引な解決しかできないか。あるいは時間切れの打ち切りか。一冊読むとネタの引き出しが増えそうな。

>20160910追記
この前クツェーの『どうぶつのいのち』を読んだとき、クツェーが南アフリカの作家で差別についての著作を重ねたうえでこの本を書いた、っていう経緯を知らなかったんで誤読したなと思います。昔はテキスト論が万能のように思えてたけど、こういうとき作家論とか作品を取り巻く状況考えないと誤読する。