『ジーニアス・ファクトリー−「ノーベル賞受賞者精子バンク」の奇妙な物語』デイヴィッド・プロッツ著 酒井泰介訳

あんまりにも面白いから概要を人にしゃべったら、「でも、たくさんのお父さんが不幸になったんだ…」という男の感想でした。心に残ったのはそこか!
ノーベル賞受賞者みたいな優秀な人間の精子を、優秀な女性に提供して人類の滅亡をふせごう!みたいなSF的妄想からスタートした紆余曲折と、生まれた子どもがどうなったの、っていうのをわからないから著者が全部調べて回答を用意してくれた、ものすごく面白い本でした。
結論としては、この事業が有耶無耶になった後に調査しだした著者に連絡とるような人は、エリートっぽい精子を買うくらい子供がほしくて経済力のある母親に育てられた子なんだから、子供は親の環境なりにそこそこ幸せになってました。ただしほとんど離婚。前置きとして、精子提供の事実を子に知らせて無い家庭や、円満な家庭は波風立てたくないから、離婚してない人の連絡は少なかったんだろうという冷静な判断をしつつも、それは自分が原因の不妊で、血のつながらない子、しかも精子の提供者が自分よりも優秀だとわかってる子を育てる男はそれはそれは不幸な気持ちだったことに思いをはせる著者で、基本的に目線が繊細でやさしい。無神経な事実とデリケートな思いが入り組んでるのに、筆がどちらにも偏らなくて、いい本でした。
科学と、妄想と、人生と、概ね愛についての本でもあるので面白かったなあ。