『やわらかな遺伝子』

2004年なので科学書としてはちょっと古めだけど、タメになりました。

病気になりやすかったり、勉強の得意不得意なんかの原因が、「生まれか育ちか」といわれたら、どちらも関係があるよーという当たり前のようなことについての本。どちらかを重視したいっていう社会の雰囲気とか、宗教とか個人の信条もあったりして、時代と場所によってコロコロ変わってて結構驚き。私の子供時代なんかは育ち重視な世界だったけど、遺伝偏重の揺り戻しあって、今ココみたいなかんじです。
遺伝と育ちを対立として見る歴史を説明してくれて、人間だって病気になりやすい体質なんていうのは動物と同じように遺伝の要素はもちろんありつつ、それが全てではなく環境もトリガーになっていて、どちらかだけではないということを、豊富な事例から丁寧に説明してくれるんで、豆知識増えて面白い。

生まれ持った性質は変わらない、ということでもあるし、原因は遺伝によるものだけでもないということでもある。絶対の運命と不確定な未来のめまぐるしく交代する、絶望と希望の書でもあって、読む人間にとってドラマチック。
遺伝が関わる病気として、統合失調症が挙げられており、双子の追跡研究などにより遺伝要素は高いことがわかっているそうです。どれか一つの遺伝子によるものではなく、時間の経過があって多くの遺伝子が働いた上で起きることで、不利そうな形質なのに進化でなぜ淘汰されなかったのか、といったことまでフォローされてるのでほんと絶望と希望の書だよ。

あと個人的にポイントが高いのが、古典のユートピア小説を章末毎に紹介する形で章がまとめられてること。時代の雰囲気を反映して今ではどう読んでもディストピアになってる。生まれという運命と、育ちという社会の相克の歴史なんで、時代時代の社会実験小説がまとめに最適なわけです。

高校まで生物やってたくせに文系の悲しいいい加減さで、遺伝子が関係あるのって受精とか生命の誕生の初期の初期だけかと思ってたんですけど、毎日細胞ができてるんだから生きてる間中関係があるよ!勉強はするもんでした。正直、理系の難しいところはボンヤリ飛ばし読みしてしまいましたが面白く読めました。