『典獄と934人のメロス』坂本敏夫

関東震災で倒壊した横浜の刑務所で、法に則り囚人を解放した秘史。
一番知らなかったのは、震源地が横浜で東京並みに死んでること。東京は火災で東京市の43%消失という凄まじい被害で焼死が圧倒的に多いけど、港湾都市の都会・横浜も壊滅してる。土地勘あるので、あのビルの中で2000人死んだのか・・・って改めて思い至って、怖い。
小説みたいに構築し直したニュードキュメンタリーっていうか人情あふれる講談調なので、一杯のかけそば並みの信じられないようなイイ話続くなと思ってたら、その後に官吏の保身と腐敗工作や、国際政治による歴史抹殺の結末が続くのでした…震災という最大限に困窮している危機に乗じて、政敵を蹴落とす派閥争いあったりするんだけど、奇跡を成立させたのもこれまた官僚の派閥。人間のつながりって本当に不思議。地上に出現した「塀も檻もない監獄」という人間の信頼の奇跡も、未曽有の危機にも保身とメンツを優先する権力欲も、どっちも理解の延長にあるけど、この非日常は、バランスをとっていては乗り越えられないものだったんでしょう。どちらかに大きく振れた動きがあらわれる場として書かれててドラマチック。
書かれなかった歴史が、今、明らかになったっていうリアルタイムに居合わせたのは珍しい経験で面白かったです。すっごいいい話なんで、これからドラマ化したり、映画になったりして広まってくと思います。