『善き女の愛』アリス・マンロー

ものすんごい巧さ。ミステリーやSFっていうジャンル小説じゃない、小説っていう小説はここまで表現力があるもんなのか超面白い。ものすごい。こんなに事物の描写が、飽きない、いつまでも情景描写を読みたいのに、そこに人間がいて、注意を向けること要求する。そこにあるものに、感情とか考えとか、こんなに持つのかっていう、変な感動ありました。空想じゃなくて、思いや感情が物と現実と共にある。地味一辺倒じゃなくて小説的な華やかさ、鮮やかさもある、現実が材料でできてる夢のような美しさで読む快楽。

ちょっと名前だけ出てきたような登場人物が、次の次の短編で描かれたり、都市小説の面もありまして、書かれている人物は、少年(でも少年の集団みたいな塊が書かれてて面白い)、少女に女性に男性に老女、老男、多岐にわたるんだけど、個人的には、何物でもなかった若い女性が、自分の不確かさと表裏の成長する未来への希望、それが結婚や出産で社会で安定を得ることと何か決まったところに嵌っていく閉塞の、時間のうつろいに共感してしまいました。たくさん描かれる母と娘のバリエーションが、どれも違うのに同じようで、不思議な味わい。
私の心境の変化とかもあるんで、10年前ならここまで面白くなかったでしょう。キツかったかも。

ちょっと急いでて丁寧に読まなかったせいか、意味の飛躍をとりこぼすところありました。短編だからこその超密度と、詩と短編小説の中間みたいな空間だったと思うので、こんどはゆっくり読んで味わいたい。
ノーベル賞作家超すげえな。