『チャンピオンたちの朝食』 カート・ヴォネガット・ジュニア 浅倉 久志訳

SFではない小説。アメリカ1974ベストセラーで若者のバイブルになったらしいです。
著者のような?SF小説家の登場人物が出てくることで、SF要素がメタな落とし込みになって、でもこの本の作者(と名乗る人物で、作者にしかできないことをする)までも出てきちゃったり、とてもメタメタした実験的な構造の本。でも、難解というものでは全くなく面白い。シーンや、パラグラフの単位では、感情を揺さぶる短い挿話、印象的な警句であって、まったく飽きはしない。且つ、絵がとってもたくさん入っています。サービス!
あと、若干どうでもいいんですが、伏字にするような字がしっかり印刷されてるんですけど、英語だとどうなんだろう。ポルノ単語あるだけで読む気になるよね。書かれていることは非情で陰鬱な絶望ではあるんですが。

なにがアメリカをこんなに危険で不幸な国、実生活でなにもすることのない人びとの集まった国にしているのか、いったんそれを理解したとき、わたしはストーリーテリングを避けようと決心した。人生について書こう。どの人物にも、ほかの人物とまったくおなじ重要性を与えよう。どの事実にもおなじ重みを持たせよう。なに一つなおざりにはすまい。ほかの作家たちには、混沌の中に秩序を持ちこませておけ。わたしは逆に、秩序の中へ混沌を持ちこもう。自分ではそうしたと思う。
232p

タイトルは内容とあまり関係が無い。というか、無関係に見える事象をこんなにも並べてることを目指す本であって、それはこの本を形作るものであると同時に、世界にある物の抽出物であって、読後は何とも言い難い。1冊の本にしかできないこと。
どうしようもなくて回避できない人間の愚かさに胸が苦しい。未来の閉塞感…。執筆当時の時代の空気とも、普遍の感情とも思えます。1973の本だけど。
ヴォネガット大好きなんだけど、だんだん残り少なくなってきてしまったので、ガツガツ読めないんだなあ。もっととっておきたい。