『女工哀史』細井和喜蔵

女工大全」というタイトルが似合うかんじに、女工の募集から女工の生活、仕事、趣味思想将来末路が書いてあるんで、女工についてにわかに詳しくなったような。
有名な本だけど、湿っぽいタイトルなんで手にとりずらかったんですが、読物として面白いのは抜群。かどかわされる様子を小説にしてみたり、あの手この手で読物として面白い。勿論、著者の言いたいことを書くわけだから、怒り怒り、でも工場への愛、そして怒り、なんかもう、感情的すぎてうっかり感動してしまいました。

虐げられ蔑しまれながらも日々「愛の衣」を織りなして人類をあたたかく育んでいる日本三百万の女工の生活記録である。地味な書き物だが、およそ衣服を纏っているものなれば何びともこれを一読する義務がある。そして自らの体を破壊に陥し入れる犠牲を甘受しつつ、社会の礎となって黙々と愛の生産にいそしんでいる「人類の母」―彼女たち女工に感謝しなければならない。

のっけからして、このテンション。そう、テンションが高いんだ。パワー。
女工と同じく紡績工場を転々とする労働者だった著者は、原稿が完成して1ヶ月で死んだそうです。
ただ、こういうのを読んで、一々思い当たる偽装請負とか監禁寮住まいとか、依頼退職なかんじの首の切られ方とか、現代もあんまり進歩してないかんじ。寮住まいにして住居の補助ではなく、人並みに住めるだけの給料払え、と叫ぶ著者が素敵。
正論なんだけど、今まで思ったことなかったんで目からウロコでした。自分の未熟、技能不足を、会社のせいにするのがカッコ悪い的な風潮じゃ、すまないときもあるってことだそうです。女工っていうのは、要は単純労働の若い人で、才能とか必要なわけじゃない。でも、そういう、いくらでもとりかえのきく労働者が工場やっていくからには絶対必要、その上女工からレベルアップできる職業もない。個人のスキルアップとかそういうことじゃ救われないんだよー、制度がどうかしてるんだよー、という話でもあるのでした。
でも、著者が工場という巨大な世界が相当好きでもあるので、なんかもう難しいぜ。女工が働くうちに中性的になって老けたかんじになってそのくせきれいな女は激しくねたむとか嫌にリアルなところと、工場は精神と科学の永遠のラビリンスとか、ロマンチックな言葉を捧げていたりもする、本当、世界の全て、著者の全てみたいな本なんだろうと思います。