『琥珀のひとみ』ジョーン・D・ヴィンジ

表題の「琥珀のひとみ」は1974年のヒューゴー短編賞。
短編集です。どれも全く違うアイデアなのに、繊細な感情に満ちていて、気まずいオチになる雰囲気がよく似てます。ハッピーエンドという言葉の空しさを噛み締める終りばかりさー

切ない切ないという感想ばっか読んだ「錫の兵隊」は、確かに切ない話でした。あらすじを書くと面白くないので、書きません。・・・と思いましたが、この時代にあんま読む人いないかと思いなおしたので書いちゃうぜ。

女性だけが星間飛行に耐えられたために、女権社会となった未来。職業宇宙飛行士の女達は一生を宇宙で過ごすために、地上の人間から見れば、まるで永遠に若いまま。そんな彼女達が憩う酒場「錫の兵隊」を経営するマリスもまた、いつまでも若い青年の姿をしている。火星の軍神から名前がとられたように戦争の星に生まれて、半身を失い、体のほとんどが機械になったサイボーグなのだ。
だけど、彼女たち、彼も心は人間のまま。年をとらないことで、人間社会から置いていかれてしまった疎外感を共にするも、宇宙の何処へも行ける彼女たちと、サイボーグであるために否応なく地上で待つしかない彼には埋められない溝が……

雪の女王』のように、童話の要素もあります。作中、宇宙飛行士を紙の踊り娘に喩えて、自嘲するサイボーグは悲しい。
ドアーズの曲「crystal ship」からとられたという、水晶の船も、通いきらない心のつながりを描いた話。一歩間違うと、ハーレクインになっちゃうんだけど、ギミックが面白いので気になりませんでした。あと、悲しいんだ。ハーレクインじゃないから当然のように、心が通うことは大変なので、もどかしさと報われきらない寂しさがあります。