『ダンボールハウス』長嶋 千聡

建築学科の学生さんが、卒論のためにダンボールハウスについて研究。
この本は、全く救いのない事柄について書かれているにもかかわらず、楽しげで明るい。
なぜかって、今は何も手にしてないけど、夢と未来と若さと希望のある人間が著者であるということに尽きます。フリーライターとか不安定な人間が書くと、凄惨で陰湿な本になるだろうけど、きっと著者は大事にしてあげたくなる系の若者だったんだろうなぁ。青春の一瞬っぽい雰囲気もにじみ出てて、題材以上に面白い本でした。

建築の学生さんなので、ダンボールハウスの詳細な図面を載せているのですが、驚くほど物が多い。生活雑貨、食料、服、とにかく物がないと生きていけない。物を持つことは、生きるための最低限のラインなのです。いつも思うんだけど、「生活感のない部屋」というのは、つくらないと存在しない。生きてる態度がプラスだろうがマイナスだろうが、忙しかろうがヒマだろうが、生きてると物だらけ。
両手に持てない以外の物を所持するには、物を置いておける場所が必要で、全てが不安定で明日をも知れないときに、明日もそこに自分の物があるということは、すごく矮小ではあるけれども明日への信頼です。
疲労しているとき、病気のとき、眠っているときの、無防備で普通には行動できない生理状態の時間を過ごせる場所が、夜、どこにもないとしたら。

ダンボールハウスという、精神的にも肉体的にも生きるボーダーな題材が題材なので、著者の態度によっては怒り狂うほど最悪な本になりそうなのですが、きっと誰しもが過ごした若いとき、過ごしたかった若さを持った彼と、それを昔持っていた人たちの交流の記録でもあるので、なんだかよい本でした。ダンボールハウスの写真もカラーではなく、モノクロであることで、「本」という虚構にとどまってこのぎりぎりの読後爽快感があるんだと思います。
そして、この日記に若干なんかいろいろ篭っているのは、それは、まぁ人生いろいろだ。