『人間の土地』サンテグジュペリ

飛行体験のエッセイ。
ときに傲慢に思えるほどに、熱烈に自由でありたいと願い、一瞬の生命の輝き以外の全てを捨て去りたいと、願う本。啓蒙書みたいな。

そういう生き方に、最も近い生き方として郵便飛行という職業を愛し、その職務の中での輝かしい奇蹟のような体験が、ウソみたいに美しくてすごい。でもウソついてるわけじゃなくてロマンがその体験を脚色するのではなく、体験そのものが生を語るに足るすばらしいものだったと思います。天変地異の中を飛び、神々しいまでの大自然の中で翻弄されて、生と死だけのシンプルな世界の時間を生きる。訳が堀口大學なので、詩のように美しい時間。

砂漠について書かれてるんで「狐」「薔薇」「井戸」といった星の王子様のキーワードが、どこから出てきたのかが伺えるけど、星の王子様に出てくると、理解は及ぶけど謎めいた物たちになってました。広大な砂漠と、一人の心が、互いの縮図のように補完しあっている、この人だけの小説なんだと思います。