2000年古本屋への旅

今よりほんの少し昔。
本は本屋に並んでる新品を買うもので、いらなくなったら資源ごみの日にビニール紐でまとめて出すもので、売るものではありませんでした。古本屋はアングラな場所で、そもそもそんなたくさん古本屋がなかった。古本を売りに行くのに身分証明書なんか出したことなかったね。古い本を手に入れるのは大変だったのだ。ヤフオクも無いから一期一会。バザーなんかあろうものなら金を握り締めて古本を買いに行くくらいしか、小中学生に古本の入手場所はなかったのです。

それが、横浜に引越ししてきてから変わりました。駅に降りれば、サラリーマンのおっさんと学生向けの、何十年も日焼け続けた古本屋。古本屋がある!という感動ですね。こういう古本屋は、立ち読みは狭い店内に店主と二人しかいないもんだからものすごく居心地が悪い。そして、駅徒歩30分もいけば幹線道路沿いにネオンピカピカの倉庫な古本屋があり、中古ゲーム、CDにマンガが並んで、奥にはカーテンで仕切られたエロコーナー。

そんな古本屋群に行くことが、私が初めて街に出て行く理由になったのです。
休日に家族で行動せず、一人で古本屋に行く後ろめたさと申し訳なさが薄れていって、いつしか本当に自分自身の楽しみになっていくんですね。

2000年前後はブックオフ1軒でカバーする範囲に、小さな古本屋が入れ替わりで常に4〜5軒あった印象です。
ブックオフができると古本屋は消えていきました。そのまま空き店舗や詐欺まがいの変な店になって、いつ消えたのかわからないまま、町が知らないうちに何となく寂れていくのと重なってました。


古本屋に時々行きたくなるのは、何かほしい本があるわけじゃなくて、この過ぎ去った日々に戻りたいって気持ちなんでしょう。


思い出の中の古本屋で一番輝いてるのが先生堂書店。
夢のような場所でした。
伊勢崎町のオデヲンビルにありまして、関東最大級の古本屋街と謳われていましたが、誇張ではなくエスカレーターで上ればフロア丸ごとが古本で埋まっていて、見渡す限り古本しかない。
とはいえ、お小遣いで買う身なので専らワゴンを漁る日々。通って3年目くらいに、当時もうすでにかなり古い絶版本だったドラゴンランスを3冊100円のワゴンで揃いで買えたときの喜びは今でも覚えてるなあ。背表紙のキラキラホロが並んでるの見たときの興奮。すげー汚い本だったけど。

病み付きになって毎週のように、自転車飛ばして通ってました。
伊勢崎町は当時はまだ松屋があって、ゆずもつい最近まで来てたって頃です。デパートなんかの家族の買い物についてくると、買うものが無くて場違いでうろうろしてた私に、やっとできた来たい場所でした。
ここに自分の居場所がある、見つけた、獲得した、という感動は人生初めてだったかも。

ぼろぼろの超人ロックや石森・松本零士漫画も衝撃的でした。今時のブックオフでは見られない、見たこと無いほど古くてぼろい真っ茶色なマンガ本がワゴンで叩き売りされてまして、古本って本当に古い本なんだな!というあったりまえの感想が出ました。この頃買った本、売るにも捨てるにもできず物理的にまだ残ってると思います。本って丈夫なもんだ。
ショーケースにはマンガ原稿や稀少なマンガ本が置かれ、やや奥待った棚にはうすいほんこと、同人誌が置いてあったんですがこれまたカオス。古同人誌が普通に売られてたんだ!男女向け一般R18 大手に小手がどさーっと1畳ほどの棚に詰まっておりました。当時のこの棚を知るオタク友達とも話しましたが、眼がこの棚で本当鍛えられましたたね。1冊だいたい100〜500円くらいだったけど、薄くて高いからそりゃあ必死に選びますよ。同人誌といえば、橋のたもとにあった南海ブックスもカオスでした。売物はエロ本ばっかなのに、何持って行っても買ってくれたもん。閑話休題
また、古地図とか和綴じ本のいかにも古書!っていう古書眺めるのも、いい気分。博物館にあるようなのと見分けつかない本に値段ついてんのを、棚の脇に山になってるのを蹴飛ばさないように歩いてました。

模型屋もこのビルに2軒くらい入ってたと思います。モデルガンとかミニカーの店と、ガレージキットなんか置いてあったラッキーサン。今やUFOキャッチャーにあふれてるようなキャラ物のPVC完成品は無く、ユージンのSRシリーズとかガチャガチャに毛が生えたような物と、コトブキヤコールドキャストくらいしかキャラ物の完成品は存在しなかった。そして結構お高い。だから実物の立体物が見られる場所は本当貴重でした。ガレキの完成品も中古で売ってたけど数万円なので手が出るわけがなし、でケースに張り付いて目に焼き付けて帰るの。

それから、中古ソフト屋のトップボーイもかなり長い間入ってました。ドラクエ3の勇者みたいな男の子のマークのお店。中古スーファミソフトに白黒コピーの取説ついたものが、堂々と棚に並んで売られていたとは信じられるだろうか。ソフトは中古でもなかなかに高価で買えないので、ゲームのチラシもらって時々攻略本買うのが楽しみでした。インターネットも無い時代、そして世はPSとSSの次世代機登場で、チラシが結構豪華だったわけです。コナミはビジュアル誌みたいなのタダで配ってまして楽しみでした。水着特集なんていったら月下の夜想曲のマリアの水着書き下ろしが載ってるんだよ。ときメモ書き下ろしマンガとか。チラシを読むだけでワクワクしてたものでした。

最上階には日本最古の映画館がオデヲン座がありました。伊勢崎町は映画館も多かったですが、ここは文芸映画が多くて格調高かったですね。タダ券もらったときに一度だけ入ったことがあります。小さいスクリーンで椅子は硬くて心地よい場所ではなかったけど、なんか高尚なことしてる気がして感慨深かったです。

なお、このビルはカワイイ女子は下種なオタクに声かけられる、ちょっと危ない場所でした。独特の店舗割りで裏に死角があって危ないんだよな。アンダーグラウンド


伊勢崎町にはもう3〜4軒古本屋がありました。中古ゲームとCD(とエロ)の店は2,3回できたりつぶれたりしてたような。隣がドヤと風俗街だし。

ゲームをやるゲーセンもちゃんとありました。平八のでっかい像置いてる店あったねえ。とおりに面した店でも、1階フロアなのに薄暗くて、こわい場所っていう古いゲーセンの雰囲気があったと思います。当時ビデオゲームのフロアまで怖くて入れなかったよ。伊勢崎町の外れのほうにあった50円ゲーセンでしかビデオゲームやったことないです。


また、今はもうやってないと思いますが、このオデヲン座から少し離れた場所にある巨大書店の有鱗堂本店の地下のギャラリースペースでは、毎年有鱗堂コミックフェスタという同人誌即売会が開かれていました。
街中ですよ。
普通に絵や写真のギャラリーやってるところで、足を踏み入れたらいきなり同人誌即売会!神奈川県で漫画描いてた人は一度は耳にしたんじゃないでしょうか。これがまた面白くて、1週間くらいにわたって50sp入替制。同じ開催形態は見たことありません。今みたいにネットがあるわけでもなし、50spのジャンルもばらばらで、毎日が楽しみでした。そうそう、最遊記の同人誌版もここで売られてた!私は過去のパンフレット配布を読んで知ったのですけど。コミックに力を入れていたスタッフさんがおられたのでしょうか。書店主催ってのが本当珍しかったです。有鱗堂は文具館もあるから、コミフェスの帰りにペン先買ったのもここだあー 懐かしい。


大学入った頃かな。
ヒマに飽かせて、受験で落ちた体力で自転車こいでへろへろしながらもう一度訪れたら、松屋は無く、オデヲン座もなくなり、ゲーム屋もなくなり、古書店も移転してました。ラッキーサンはまだあって、大学生の経済力でマクファドラゴン第一弾を一匹買って帰ったな。
移転後の先生堂は小さい普通の古本屋になってて、私の青春も終わったのでした。
伊勢崎町自体も、安い服売る店や、パチンコ多くなってて、雰囲気変わってました。映画館のたくさんあるオシャレなショッピング街の、デパートの中に古本屋があることが好きでした。



もしも一日過去に戻れたら。
夏休みに、オデヲンビルに自転車を止めて、キンキンに冷えたエスカレーターのぼって一日立ち読みしていたい。