[本] 『日本兵を殺した父 ピュリツァー賞作家が見た沖縄戦と元兵士たち』デール マハリッジ

沖縄戦の従軍当事者が世代的に死につつあり、その父を亡くした強烈な動機のある著者が心に折り合いをつけながら執筆に10年という時間を経た上で、今の時代だからこそできあがった本。昔の本ではない、今の本のスリルがありました。
父親と同じ部隊の生き残りにインタビューを重ねて、戦争に行った父親のいる家庭の緊張と苦しみが、普遍的であること、兵士たちの苦しみと同じく、自分の苦しみもまた戦争からもたらされたものだと理解していく。

描かれる兵士の像は、いろいろ読んできた本と全く同じなんです。今の時代のトレンドの考え方、というより、さまざまな事例で、同じ結果が導き出されてるのを、今読んでるっていうことだと思う。
時代を超えて兵士に何が起きているのかを通解した『人殺しの心理学』や『アメリカンスナイパー』『帰還兵はなぜ自殺するのか』…歩兵の多くは経済的に豊かではない家庭の若者で、職のために軍隊に行く。戦争で殺人をする可能性、自分が簡単に死ぬ可能性がある環境の強大なストレスで甚大なダメージを受ける。加えて脳震盪という見過ごされていた物理的な脳の損傷によって、日常動作に支障が出たり、衝動的な人格に拍車がかかって、望ましい人生は送れないし、家族は崩壊していく…。
立案される多くの作戦では、歩兵の命それ自体に価値は無い。価値は、減らすと出世に関わることくらいにしか思ってない上官が作戦を立てることも当然のごとくある。

私の日本の史観で、WW2日本軍は愚かな作戦を立てたし、アメリカ軍は民間人助けたみたいな知識があったんですが、覆される衝撃がありました。
アメリカ軍も愚かな作戦としか言いようがない不合理な作戦を立てること、人道主義的な対応は個々の兵士の資質に依存していて、全体としては戦争の狂気が常態であったこと。民間人は助けるみたいな平時の日常的な感覚を持った兵士は、部隊の中でも異質な変わり者であったという…。悪人を殺す!罪なき民間人を助ける!ヒーロー!みたいな「よい戦争」は、できない。映画の中だけで現実には存在しない。
一番スキャンダルなのは、最初は命令としてあったことが問題になってきたので暗黙の空気の中で日本兵の捕虜は基本的にとらずにビラ持って投降してきても殺す、民間人も普通に殺す。よくさ、沖縄戦で投降したら助かったのに自決してかわいそうっていう記事読んだけど、民間人も見つけた途端に皆殺しだし、投降しても命が助かるかどうかって、部隊の中で少数派の人道的な人間がいて、たまたまそいつが主導権のある現場だったらみたいな、ものすごい不確実な判断だったわけ。まじかよ。

で、その従軍の当事者たちは、今も、生々しい瞬間のまま悩み苦しんでいたりする。そしてかたくなに隠そうとする人もいる。民間人夫婦を誤射した後に残された赤ん坊を撃ち殺したこと、レイプを隠す老人に著者と怒りを重ねてたけど、それは悪いと思ってるから話せないんだな…

ジャンルで最近出てるような新しい類書を何冊か読んで、より知ることができました。戦争がヤバイってのは、どんなブラック企業で働くよりもヤバい職場で人生が詰むってのあるんだよねと。