『病の皇帝 がんに挑む』シッダールタ・ムカージー, 田中文訳

読みたかった本。やっぱりよくわからんものは怖いよね。がんについてよーくわかる本。病院のサイトとか個々の病気のサイトとか見ても、わかったようでよくわからないんだよ。

がんが記録に残る紀元前からの歴史本でもあるので、超面白く読めました。
がんの正体を突き止める研究と、治療の研究は、両輪で進んでいたわけじゃなくて、絶対死ぬ病気っていう性質上、作用はよくわかんないけど効く治療=正常な細胞ごとがん細胞殺す抗がん剤を探す研究が80年代くらいまで主流で、遺伝学の発達からがんが、普通の細胞が突然変異で異常な遺伝子を持つようになった、というのがわかっていく。がんには細胞と同じくらい種類あるんだから、その細胞を標的にして効く薬が研究されていって、効く仕組みがそれぞれ違うっていう。抗がん剤って一口で言うけど、全然違う薬。細胞丸ごと殺すタイプの薬だと、細胞死んで毛が抜けるとかなっちゃうわけ。変化したがん細胞独特の代謝の仕組みとかを阻害するようなやつだと、そのタイプのがん細胞だけ栄養不足で死ぬっていう作用。読んでよかった。

アメリカの社会運動の記録でもあって、各時代のドラマがあって面白い。
タバコで肺がんになるっていうのも、VSタバコ会社という巨大産業を相手にした社会運動史だし、がん研究を進めるためのロビー活動とかメディア戦略とか、医師でない人々が担う部分も大きい。いつの時代でも死病なんで、患者それぞれのドラマも哀切。やっぱり小児がんのあたりは、文章が文学的なこともあって、このくだりだけでも読む価値あるくらいよかったなあ。小児がんの研究に力を尽くした医師が、仕事中に死んでいるのを発見されるところなんか、ものすごくいいシーンとして書かれてました。子ども向けのカラフルな装飾の病院の描写と、病棟を通り抜けるスピード感と、文章が巧い。がん研究のドラマチックな人物描写も面白い。がんという病気が、拡張と進化の病であることからの現代のメタファーとして言及したりとか、大きく感情的にも訴えるとこありました。

大部で全く飽きなかったんでいい本した。