『医師は最善を尽くしているか-医療現場の常識を変えた11のエピソード』 アトゥール・ガワンデ

著者は医者。超正直なエッセイ兼ドキュメンタリー。良質なドキュメンタリーパートのテーマが非常に興味深いことと、自分の医者人生かけてるエモーショナルに加えて、さすがニューヨーカー連載の読み物スキルで、とてもいい本。この手の本、書いてある事実より大事なことはないもんだけど、それ以上に動かされるものがある書籍としてとてもよい本でした。

当たり前のことですが、医者も人間なので、仕事の凡ミスは絶対する。マジな話、毎日仕事してれば絶対に失敗ある。でも、その結果が患者の死だったり、その人の人生を永遠に悪く変えてしまう仕事なわけです。仕事。医療訴訟っていうのは、患者や遺族は医者を極悪人として責任とらせたい、でも悪意も怠慢でもない人間のミスに対して、破滅させていいのか。原因究明が医師の処罰を通じてしかなされないので、訴訟を恐れて何も明かされず、改善のチャンスを失うどころか、遺族にさえ何一つ知らされないままになってしまう。不幸しか生まないシステムだけど、どうしたらいいものか…
医療も人間の仕業の一つなので限界はあるわけで、みんな病院行けば治る、医者は絶対治すのが当たり前だと思ってない??みたいな、医者だってこの日常の延長にいること思い知ります。
医者になるまでに、大変な教育投資と苦労と年月を重ねてるけど、正直お金をどれだけもらっていいと他の人に思われてるのかとか。お金稼ぐならもっと対費用効果よくてリスクのない職業ある中で、わざわざ医師を志すって素晴らしいことだけど、でもいくらもらっていいのって。
医療の安全性として、帝王切開がトレンドになる背景には、上手にできれば帝王切開より予後がいいけど個人の技能が物を言う鉗子分娩に代わったという歴史ありまして、当たり前ですが職人芸だと経験が少ないからうまくできない人もいれば、がんばってもできるようにならない人もいるわけですよ。

タブーな話題に、ゴシップな興味のアンカーで引っ張られてるとこあったんですが、著者の人生問題でもあるので、倫理に深めようとする真摯さあるんで深い。医者という職業のせいで人生に大問題を抱えて生きてくんで、医者人生って辛いなあ、すごい人たちだなあと思いました。