『遺体 津波の果てに』『祈りの現場』石井光太郎

良い意味での浅さというか、相手をそのままに受け入れて話を聞いて、そこから先は読者へゆだねる踏み込まない線がはっきりしているので読み物として手に取り易い。広い対象へ向けたテキスト。題材も巧い。と思っちゃう。
津波の果てに』は少し時間が経った被災地のルポ、『祈りの現場』は現場に深くかかわる宗教者との対談。東日本大震災もですけど、ドヤ街支援、土砂災害や教誨師など。ヒロシマの原爆を体験した宗教者の話はすごかった。戦争はよくないとか、神の意志ですとかそういうふつうの終着点の先。

話がこうして書きとめられてまとめられているということは、相手の話を聞いている人がいるわけで、顔の見えない聞き手の存在を読者は感じている。『祈りの現場』は隠さずに対談の体裁になっています。著者は自分の話もする。それを聞いた後で、対談相手が話をする往還。『津波の果てに』でも、自分の話をするんですね。でもそれは自分が見たことについての説明であって踏み込まないから。
本もメディアの一つなんですけど、被災地の盗難や犯罪の話、。テレビを作る側が絵作りをする場面とか、なかなかメディアにでない話や切り口を知れる本でした。名作や後世に残るとかそういう本じゃないんだけど、いい本だと思う。