『外来種は本当に悪者か? 新しい野生 THE NEW WILD』フレッド・ピアス 藤井留美訳

新しい科学。今の小学生とかこういうの習うようになるんかな。
自分が受けてきた教育とか価値観が、ひっくり返る。思い込みのいい加減さを既存資料の精査で地道につぶしていく方法で見た新しい世界の見方。
ちょっと雑でふかし気味のライター本で、専門書ではないんですけど、面白かったです。

外来種とは何か。定義が実はいい加減。
入ってきたのが100年前なら、1000年前なら、10000年前なら、そもそも氷河期で地表削り取られてリセットされてるんで、氷河期以降は全部外来種なのか。
動物由来、海流や自然風由来、人間由来の区別をつけるのか、人間の恣意か偶然か、どこから悪なのか。

外来種=悪という史観。
外来種由来とされてきた生物の絶滅の根拠が、実はあんまりきちんとした論文じゃない。外来種が悪というという結論ありきで、センセーショナルに煽り立てられてる。これがまた、移民敵視や国民史観の自然保護など、科学ではなく政治イデオロギーと密接。純粋で正統な本来の生き物を守る、ということが正しさはには、先の外来種の定義と合わせてすごく政治が絡んでくる。

・適者生存
すでに環境が破壊されて空白地帯になったところに、新しく入った生物という視点。絶滅の犯人ではない。外来種は定着するものもあれば、しないものもあり、定着しても増えた後に環境の変化で自然にいなくなったり、外来種だからこうなるとか影響をひとまとめにはできない。か弱い生物が外来種によって駆逐される、という一面ではなく、荒廃した自然が新しい生物によって豊かになるという視点での外来種研究はほとんどない。

・太古の自然そのままの原生林という幻想。
南米のジャングルは、古代の広大な焼き畑が放置された後に出来た植生。近年になって焼き畑でジャングルが破壊されている、ではなく同じこと何万年も前からやってて、ヨーロッパからの疫病で焼き畑する人間が絶滅したから、人間によって作られた肥沃な土地が今豊かなジャングルになってる。

アフリカのセレンゲティ国立公園なんかの野生動物の楽園は、
イタリア軍発でアフリカ大陸に牛疫病が蔓延して、部族民の牧畜産業が全滅し野生動物も激減
→動物に食べられなくなった草が伸びてブッシュになって、伝染病を蔓延させるツェツェバエがジャングル奥地から進出
→牧草地で牧畜ができなくなったところに野生動物が増える
の結果1900年くらいに出来上がったもの。らしいですよ。新しい。人間が世界中ですでに長い歴史に渡って環境に手を加えている。

イデオロギーの変遷。動植物が相互につながりを持つ高次に完成された生態系、それを損なう人間という懲罰的な自然観ではなく、カオス理論により個々の生物が個体単位で環境に合わせてたまたまそこにいるだけで、常に生物は移り変わっているという新しい科学の対立。


すごく面白いけど、ちょっと独善も感じる。島で1種絶滅しただけで10種増えるのはよし、でも世界中で-1種になるけど、そこは別にいいみたい。いいんか。

まあ、産めよ増えよ地に満ちよ。私も自分勝手な人間なんで、刺されたら死ぬような生物は身の回りからいなくなってはほしいし、可愛いインコとかはどんどん飛んできてちょうだいよ。