『オリクスとクレイク』マーガレット・アトウッド

著者は文学者。なので、SF枠だけど文学として読んでいい小説。カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』なんかに近い。
世界観の魅せ方が非常に巧みなので、これもあらすじ知らないほうが読む楽しみがあります。崩壊した世界と以前のディストピアらしい世界、そして思い出の中でゆっくり進む世界のモラルと家庭の崩壊、ぼくの成長…謎ときよりも、うつろう様を読み進むことに独特の楽しさがあります。黄昏と滅びの美学。
すでに終わっている話なので、小説がどこで終わってしまうのかも予想できずスリリング。
思い返すと、主人公が失われたものの代わりに執着した文学、芸術、生命、倫理…かつて価値のあったものが換金されるようになって久しい世界の崩壊と、手に入らなかった愛を崩壊した世界の新しい住人たちへ見出しても、それが全くの異質で結局手に入らないところなんか、普通のSF小説だと焦点一つになりそうなところが見事に複層に関係してて面白い小説でした。