『暴力の人類史』スティーブン・ピンカー

図書館で借りたら上が数十人待ちで、下だけすぐ来たので下だけ読みました。みんな上で飽きるんだろうか、と若干不安になってましたがそんなの心配無用でした上巻早く来い。(上下連冊で予約してる人が多いだけですね)
厚いんで下から読み出すのも、取っ掛かり良くていいと思います。私は上読んで無いけど。

「暴力」という根源にしてほとんど全ての原因で、ありとあらゆる問題についての本。
人間の苦しみ大全。
だってもう下巻冒頭の、人権感覚という章立の中で、女性への虐待、DV、子殺し(その中でも遺伝学的には不可解な女児殺しがあっても男児だけ殺すのは無いのが世界的普遍であること)、児童虐待、動物への虐待…雑学エピソード集としても超秀逸なんですが、そのジャンル(?)一つ一つの経緯と、横断した緩やかな関連も本当に目からウロコで、構成もいいもんだから、厚い本の厚い分の力が詰まってて、超面白いです。すごい。本として素晴らしい。
雑学エピソードで、興味引かれて面白かったのが、子殺しという遺伝学上不利そうなのに有史以来当たり前にある暴力の解説中、軽度の鬱状態が分析や評定を正確に行うということから産後鬱の母による子供との関係を母親の遺伝子を残すにあたってのリソース投資先としての評定期間では?という見方の紹介。赤ちゃんカワイイとか、子どもが大事なんていう価値観も、今の時代の感覚であってそうでなかった時代から変遷しているという…。問題についての本なんで、これを知識として知ってると、古典文学の読み方変わる。今の時代と、昔とは、問題になる点が違う。人間の心も全然違う。

歴史です。膨大な記録を読み、それについて著者が読み取れることを解説してくれる大著です。読み始めた動機は、恥ずかしながらこういう記録された暴力を、ポルノのように消費するつもりでした。暴力本枠。このぶ厚さが生と死の暴力事件の羅列でなければ、大著過ぎて途中で飽きて寝てたかもしれない。正直。というような、暴力が生得的に人間を魅了するものなのかという、「生まれか育ちか」という論点も扱われます。「生まれ」の要素も絶対にある、と。でも、長い歴史で暴力というものが減少傾向にあるという量の資料と、暴力の価値観のターニングポイントや象徴的な事件を記録から示してくれるので、まさに「育ち」によって理解する行為でした。最終章の解決編は、もう一息な気がするけどこういうこと問題にして解決しようっていう視点が新しい。
自分の人生で一番恐れているものが「暴力」で、漠然としてよくわからない不安の元でしたが、文字で読むことができてなんとなく距離がとれました。ちょっと前に「暴力論」「暴力学」なんかで検索してもイマイチひっかからなかったけど、今の時代に書かれた最新の本でジャスト回答の一冊でした。

悪を周りに感じて、不正義に苦しんでいる人、正義の人にはすごく助けになる。
なぜなら読み通したとき、認めがたい自分の中の悪を知ることにもなる。
まぎれもなく人類という集団の一人であることがわかるので、これマジで面白い本。