『火花―北条民雄の生涯』高山 文彦

らい病の作家北条民雄の伝記。重さ厚さ面白さ広さ深さに人間のどうしようもなさ、どれとってもすごくよかった。学術的な事実と、ドキュメンタリとしての人間ドラマと、読み物の構成、作者の顔出し加減といい全部いい本。

古代はその外見から宿業や神罰とされたらい病ですが、感染しないという医学的事実にも関わらず、戦争へと進む大日本帝国の完成の中で強制収容隔離政策がとられて発病した瞬間にそれまでの人生、未来、尊厳の全てを奪われる。それでも続く生。病気になった瞬間、一族郎党まで罵られる存在に成り果てて忌み嫌われて、社会に生きる場所がなくなるその凄まじさ。
北条民雄が、縁もゆかりもない川端康成に頼って作品を発表していたのは知りませんでした。川端が同人誌をよく読んで新人発掘してた、という話は聞いたことがあっても実際読むと、その献身がすごい。なぜそこまでと。北条の作品が発表された雑誌について文壇的な位置づけが、すんなり理解できてわかり易いすごい本です。戦前昭和文壇史でもあるし、知られざる川端康成っていう本でもある。川端康成あんまり興味なかったけど、もう一度読み直したい。

文壇が戦争直前のプロレタリアやファシズム、そして純文学に大きく揺れる中で、北条は多摩の施設で存在の苦しみに荒れ、川端は現実から逃避するように『雪国』執筆…
時代のダイナミズムが見えるとても面白い本でした。一つ一つはバラバラで知ってても、つながりが見えるのがすごく興味深い。巻末年表もすごい。北条民雄は忘れられた作家ではなく、当時は作品が売れたっていうこともまた知りませんでした。作家としてしか生きられない本当に面倒な人間くさい人間という、いかにも昭和の作家らしい描写を読んで、善と悪とかそういう話ではない、人間のどうしようもなさに胸がかきむしられる。面白かったなあ。