90年代エレクトーン(EL-90)とスーパーファミコンのゲーム音楽

今のアラサー、アラフォーエレクトーン経験者は、90年代にエレクトーンを習っていた人でして、EL-90が最上級機種という時代を過ごした世代です。先生が教室のEL-90で弾いてくれた、ルパン三世のテーマや、エレクトリカルパレード、目指せポケモンマスターのグレード5級楽譜にみんな憧れたもんです。

1991年〜1998年の間は、EL-90より上はない時代。もう少し下の世代だとEL-900、そして現行機ステージア系列と変わるので、8年もの間同じ機種、同じ音が続いたというのはなかなか無い時代だったのだと思います。電子楽器という特性上、技術全体の向上や電子部品の調達など、時間に左右される要素がとても強いということを、今聞いたEL-90は粗大ゴミにしかならないという話で衝撃を受けてしんみりしておりました。お値段100万円の楽器が今や1000円払って粗大ゴミに持って行ってもらうんだって…そんなあ。


最近、ステージア実機の演奏を聞く機会がありまして、音のクリアさと鋭さに驚きました。生のサンプリング音により近くて、本当にすごいものだなと。
EL-90の音は、独特の電子音。ストリングスはエッジが丸くて、ブラスの入りが遅くて厚くて平坦な電子音…、そうこの音は… ゲームの音!スーパーファミコンの音!
エレクトーンはAWM音源+FM音源SFCはPCM音源なので、詳しい方からすれば波系は違うようですが、ちょうど同じような楽器データがそろっていてまるで同じ。SFCが1990年発売、EL-90は1991年発売なので、リアルタイムでやったゲームの音楽を、実機そっくりの音で再現という楽しみが、90年代にエレクトーンを習っているゲームキッズにはあったんです。この頃は、ファミコンもまだまだ現役で遊ばれていたので、ファミコンの音楽を豪華な音で弾くという楽しみもありました。この頃のゲームのサウンドトラックには、アレンジバージョンがつくことが一般的で、ピコピコした原音を、生楽器やシンセサイザー等で豪華なアレンジで聞きたいという欲求があった時代です。

また、エレクトーンはリズムパターンを自分で打ち込んだり、音色を目盛りいじってエディットしたり、曲の展開に合わせて音色やリズムの変更をフロッピーに保存(レジストデータ)したので、その後DTMに移行していった人も多々いたことでしょう。00年代有名だったゲーム音楽MIDI作者の埼玉最終兵器の方は教室用のエレクトーン楽譜のMIDIをお遊びであげていたような思い出あったり、有名どころではナムコの椎名豪さん(テイルズやゴッドイーター)、セガの小林秀聡さん(PSO)もエレクトーン経験者だったと思います。右手にメロディー+左手に伴奏+足にベース、加えてリズムトラックを組んで、音色を配置する能力と作業経験が、DTMゲーム音楽にものすごく相性よかったのです。今や、芸大出がゲーム作曲家になる時代ですが、学術的な音楽教育を受けてゲーム音楽を作曲される方が少なかった時代からの過渡期に、入口として果たした役割があったのではと思います。


当時からゲーム音楽のピアノ譜は、数少ないとはいえあることはありまして、通常の書店でも買うことができました。マリオ、ドラクエ、FF…有名どころがバイエルを弾けるくらいのお子様向けのお楽しみ用楽譜として需要があったものでした。
しかーーーーし!エレクトーンはヤマハの特約店でしか販売されない楽器で、演奏者人口はピアノの比ではないほど少なく、且つその楽譜もエレクトーン取扱いのある楽器店くらいにしか置いてない。その上、エレクトーンの音色データを収録したフロッピー込みの商品だったので、98年以降にEL-X0からEL-X00へとシリーズが切り替わると、楽譜は店頭からなくなっていきます…
今となっては、数が比較的多いであろうドラクエでも市場に出る物は滅多になく、欲しい人がいくら金を積んでも手に入らない物になってしまいました。エレクトーンというごくごく特定の楽器の楽譜なので古本に出回るような品物でもなし、子供が練習済なら汚くてますます市場には出ないし、振り返ってみればゲーム音楽のエレクトーン楽譜とはあまりにもこの世に残りにくい物体だったのです。ゲームキッズが大人になり、ゲーム音楽もわりと成熟した市場になりましたので懐かし需要はあっても物が無いジレンマ。
最近ステージア聞いてちょっと思い出して、子供の時に弾いた楽譜を買おうかなと思ったら、こんなことになってたんですよ奥さん。30年前ですもの。30年!!!
EL-90対応のエレクトーン楽譜を買うと、プロがプログラミングしたリズム+音色を保存したフロッピーが付いてきました。だいたい、EL-90、EL-70、EL-50の3機種向けのプログラムが保存されており後方互換性があったので、EL-90に下位機種向けの音色を使うのもこれまた乙なものでした。しかし、これもまた現行エレクトーンのステージアの記録媒体はUSBであり、データを移行ができたとしてもEL-90とは音色はもちろん違うので、思い出そのままやろうとすると当時の実機でしか再現できないものなんですね。


個人的な楽譜の思い出
ドラクエ4 フロッピー無し
 感想:エレクトーンの楽譜独自の特性ではないですが、変拍子と変調が多くて楽譜を読むのに苦労した大変思い出深い楽曲群。グレード5の気球の曲は、左手運指が苦手傾向のあるエレクトーン奏者殺しの楽譜。ゲーム音楽を弾きたいというその一念で頑張ったようなものでした。自分でレジストデータ作るのも楽しかったですねえ。ELよりもさらに古い機種HSの頃の楽譜なのでレジストデータに頼らず、人間力だけで完成しているアレンジなので、今の機種とは楽譜の方向性が違うかもしんないです。


ドラクエ5 フロッピーあり
 感想:もうスーパーファミコンそのまま、オーケストラ版に寄せてそのまま以上。グレード5のマーチアレンジが弾いてて楽しく、足も手もよく動いてグレード5らしいなあという楽譜。
機種はステージアみたいだけど、これこれこの楽譜。見ればわかる難しい足。これ難しいのにすごいなあ。


クロノトリガー フロッピーあり
 感想:グレード5のタイトル曲アレンジが、足が派手で弾いていて非常に爽快。実は派手な見た目ほどは難しくないのもポイント。最期のEDの曲も、レジストデータが素晴らしくて間違えなければとても綺麗な雰囲気に浸れました。指間違えると、このゆったりした1小節分の不協和音響き渡って地獄。グレード6にメロディーの綺麗な曲が多いのでスキルに余裕があって楽しんで弾ける楽譜で大好きでした。レジストデータがほんとよかったなあという思いで。
おっこれこれ、これがEL-90の楽譜どおりの演奏。


ファイナルファンタジー7 フロッピーあり
 感想:元曲はPSなので、元曲より豪華になるという路線ではないのですが、再現ではなく楽曲として再構成。弾いてて気持ちいいエアリスのテーマやチョコボもよかったけど、聞いてるほうはイマイチでも弾いてるほうはとにかく気持ちがいいのはバイク曲。レジストデータがまたよくて。フィールド曲もEL-90のストリングスが本当に綺麗に鳴る曲で、エレクトーン演奏して気持ちいいデータでした。

閑話休題
楽譜をエレクトーンで演奏したCDは比較的安価で手に入るようです。といっても、ドラクエ456しかこの世に無いと思います。演奏機種は、4はHS-8、5と6はELX-1だったような。(うろ覚え)ドラクエ5と6は、楽譜付属のレジストデータですが、ドラクエ4はレジストデータが付属しない楽譜だったため、このCDオリジナルの音色。そのため、元音がファミコンだったドラクエ4の楽曲は、豪華なシンセサイザーアレンジされてSFCのような音色になっているという当時は非常に珍しいCDなので、聞いた瞬間の衝撃に思い入れのあるCDです。ドラクエ4はPS版までリメイクされなかったので、ファミコン以外の電子音で演奏されたCDは長らくこれ1枚しかありませんでした。しかも、ファミコンという電子音のサウンドはオーケストラのCDにオマケ的な1曲メドレー収録しかないので、1曲ずつ電子音サウンドが聞けるこのCDはオンリーワンでした。



また、エレクトーン専門誌でゲーム音楽が特集されたことがありました。
新作が出るわけでもない何故?というラインナップですが…フュージョンとエレクトーンはとても相性が良く、楽譜も多く出ていたので、安藤まさひろさん(フュージョンのバンド T-SQARE)関係の人選なのかもしれません。なお、このエレクトーン用楽譜用のレジストデータは別売りだったので、ヤマハの本店のようなところにある機械にフロッピー持って行って買いました。いくらだっけなあ200円か300円くらいだったような。

月刊エレクトーン 2001年1月号 特集 ゲーム音楽. ゲームの世界
http://www.ymm.co.jp/magazine/electone/200101.php
アークザラッド」より
アークザラッドのテーマ〜明日へ/安藤まさひろ
ファイナルファンタジーIX」より
いつか帰るところ〜バトル1〜ファンファーレ
グランツーリスモ」より
Moon Over The Castle(The Theme of GRAN TURISMO)/安藤まさひろ

そして、確かにあったけれどおそらくこれからも表に出ることはないだろうと思われるのが、教室で先生が採譜をして生徒が弾いたというパターン。授業の一環で生徒が自由曲を採譜(音色、リズム等)、レジストデータを作って、先生が直すわけですが、最後はだいたい先生の手になるものになっちゃうわけで。そこに子供が今まさに遊んで何百回何千回も聞いてる家庭用ゲーム機SFCゲーム音楽なんか最適なわけですよ。生楽器や歌物より音がとりやすいし、パート少ないし、原曲とほとんど同じ音があるし、SFCはリズムパート1本でリズムも採譜しやすいし。
90年代のヤマハの生徒発表会でFF(FF5メインテーマのアンサンブルや、FF6のメドレーなど)はよく弾かれていましたし、知らないゲームの音楽も弾かれていたと思います。そういえばゲーセンにあるようなゲームの曲は全然なかったと思います。小学生だから。
ごく狭い地域での私的な思い出ですが、結構な数のゲーム音楽がエレクトーンによって演奏されていたのではと思います。私は子どもだったんで著作権とかは知りません…
発表会用に難しいアレンジでもあり、しかも最初からインストゥルメンタルとして作曲されている楽曲なので、聴きごたえがあったように思います。SFCゲーム音楽って、タイトル曲以外は2分くらいの短い曲が多いのでメドレーになってたりしてね。こういう楽曲や演奏の様子は世に出ることはないでしょう。だって発表会がVHSビデオ販売してた時代ですもん…30年前のビデオテープももうカビてる頃ですね。


受験なんかでエレクトーンをやめた後も、昔やってたよしみでエレクトーンへの興味はありまして、大学のエレクトーンサークルの発表会でMoon Over The Castle聴けていいなって思ったり、渋谷のエレクトーンの旗艦ショップヤマハエレクトーンシティでコンサートに何度かFFの演目THE MUSIC MAGESかかっていたとか知ったり、大人になってもゲーム音楽をエレクトーンで演奏するという趣味を続けている方もいらっしゃるのだなあと思うことはあれど、もうやめてることもあり界隈よく知りませんでした。ニコニコ記事によると演奏者人口も減ってるそうで、やっぱり寂しいもんですが、今すごく楽しい時でもあります。ニコニコ動画ゲーム音楽演奏するトレンドにマッチしてなんか楽しそう。ニコニコのゲーム大会『闘会議2017』で、ゲーム音楽ステージにエレクトーン演奏あったんだなあ。ってかニコニコに、ゲーム音楽のエレクトーン演奏すんごい数上がってて、見てて難しそうだなあとかすごいなあとか、演奏しなくても簡単に楽しい。視覚的な見る楽しさが、今の時代にピッタリ。超絶技巧もいいですが、懐古中としては楽譜を忠実に演奏したやつも見たい…


90年代は、エレクトーン黄金時代で、毎週日曜朝の特撮の前にコンサートのテレビ番組もやってました。そして、家庭にパソコンはほとんど無く、今よりもコンピューターは全然未来のものであって、エレクトーンはその外観そのままに未来と技術の夢を手で触れる実体がある物体でした。その大きさ、そのスモーククリアの重い蓋をあけて、なんだかよくわからないスイッチがたくさんに赤や緑のランプが光り、ゲーム機よりもコンピューター感あるSF映画の宇宙船やミサイル基地のコンソールそのままで、子どもが夢見るコンピューターそのままの形をしたデバイスだったのではと思います。
もうなつかしデバイスです… SFCとEL-90、自分が一番ゲームを楽しく遊んでいた小学生の時が重なって、いい時代を過ごしたなと思います。
それはさておき、楽譜がもう一度欲しいんだよおお(物欲でだいなし