『妊娠小説』斎藤 美奈子

妊娠が出てくる日本の文芸作品をだいたい「地位も名誉も(妻も)ある男が、年下の立場の弱い女を孕ませちゃって、とっても困って悩むんだけど、後でこんなことあったなあと安全に回想する」と喝破して抱腹絶倒。『舞姫』と『新生』のことなんだけど。その後の小説も、古典的な「男が妊娠したら女を捨てる話」orちょっと進んで「女が自立して男を捨てる話」のパターンそのどちらも、中絶という切り札投入でえらいことに…。
大衆ウケ、文学的な悩み(男の悩み)ネタとして、もうほんと、身もふたもない、妊娠の扱われ方を、明快にパターン化してくれて面白かったなあ。妊娠を男に告げるイベントがわざわざあって、そこで「生みたいの」という女→中絶or流産ルートか、「責任はとらなくていい」と女が健気に言うか、とにかく孕ませた男は盛大に悩むだけで無罪で何もしなくていいの、ほんとだ気が付かなかった。
そして、避妊は小説世界に存在しない、出てきても間違った避妊を一生懸命やって失敗という文脈でしか出てこない、とかまで言われると笑うしかないわ。
語り口は軽妙ネアカ。面白かったです。