『流れる星は生きている』藤原てい

実は夫が結構な有名人で、お前かよ!!とお前呼ばわりしてしまうほど、子供3人を連れて引き揚げの極限状態の逃避行をする作者に感情移入していました。この、一番苦しいときに頼れなかった夫とは、その後離婚はしなかったとしても一生ダメだったろうなあと思います。(感想)

満州引き揚げ3年後くらいに、生々しい実感を持って出版された書籍で、リアル。
子育てリアルがとにかくリアルで痛い… 子持ち女性に進める戦争文学第一位。
子育ては超大変だっていうイベントの当事者あるある、それが3人ですよ。子供3人と外出って抱っこ紐装備+ベビーカーでスーパーに往復するのでさえ大変なのに…。1か月の乳児は大変大変のレベルが、一時もそばを離れられない、しょっちゅう下痢するし、授乳は数時間おきだし、泣きまくるし…って通常の生活送る読者も大変だとわかってる子育てを、声を殺して国境目指す山越えや、愚図る餓鬼のように痩せ衰えた3才と6才の子どもを一人で…大変過ぎてもう。無理。無理。無理。無理。一人も死ななかったのは本当に何かの奇跡でしかなくて、努力も運もすべてと関係なく、奇跡。時代の中で個人っていうものが限りなく無価値で恐ろしい。だって、夫の転勤先についていっただけの人だよこの人。個人の事情レベルだと。

心や思いやり、そんなものがどんどん無価値になるほど切迫する極限状態で、それでも売れば1か月分の食糧になる毛の背広を着せて夫を荼毘に付した隣の奥さんとか、注射代金の肩代わりをした医者とか、戦後を迎えられたんだろうか。心は報われたんだろうか…