『善意と悪意の英文学史 語り手は読者をどのように愛してきたか』阿部公彦

読んでると、すごい頭よくなったような気がしてくる。本という媒体の誕生時、小説というジャンルが成立する以前のベストセラーだった「マナー本」「礼節についての本」の流れを汲んで、小説は作者が読者に教えるという関係性を内在していること、その作者の意思を善意と呼び、時代に沿っていくつかの作品をピックアップ解説。
インタールードとして、日本の児童文学の中から怪人二十一面相と銀河鉄道の夜を取り上げていて、そこだけでもすごい。っていうか、タイトルに英文学とついてるので、あんまりこれ目当てで読む人いなさそうでもったいない気が。
怪人二十一面相のですます調が、口語筆記体の成立時にメジャーになる選択肢だったのに、今は児童文学やおとぎ話など一種のジャンルでしか使用されない文体で、その「善意」とでもいうべき作者の親密さ、語り手の感情を語る文体であるとか、本題とは離れたちょっとしたところでいちいち頭良くなるような指摘ばっかですごい本でした。