『生命・人間・経済学 科学者の疑義』宇沢 弘文, 渡邊 格

今から40年前の経済学者と分子生物学者の対談。まるで昨日書かれたかのように、何にも解決してない!様々な問題を挙げて、じゃあこれは現行制度の社会システムや理論のほうに問題があるよねっていうスタンスの対談。
同じ社会が続いてるんだからそりゃ問題も同じってことで。そうか、この社会制度が40年続いたんだなあ… その予言された果てに今いるってことで。

経済はGNPを高くするための成長を良しとしている、それが人類にかかわる事柄すべての頂点になってしまっているが、教育や科学やアートは違うものではないのか、経済を高めない人間、例えば精神障碍者や身体障碍者は価値が無いのか、人間とはもっと違うものではないのか…… という、そうだよね正しいよねとしか言いようがない結論にとどまらない。ここで止まらないのよ。
社会制度を否定するってSFジャンル物でしか読まないんだけども、SFよりこわいぜ〜。SFジャンルって非人間的な結論や破滅を弄ぶのもジャンル特有の楽しみだけど、これリアル世界の話だからさあ…ハイ全ては価値無し!世界は滅亡しました!で済まないじゃん…

・経済について究極の問いの、余剰を生む行為は正しいことなのか。続くとどうなる?
・人間の価値とは何か。何をもって価値のある人間としているのか。

根源から問う本でした。人間の尊厳とは共感や思いあうことが人間らしさ?じゃあ意志疎通の難しい独自の世界にいる精神障碍者は?重度障碍者が貶められるのは単に不経済だからだけなの?長く生きられない障碍児も遺伝子的には全うした完全な生なのになんで悲しいの?→その命を経済含めた社会制度で救済するの?できるの?→それは正しいの?個人でしか受け止められないもので解決しないものでは?悲しみや生死には、誰が責任を持つの?判断の主体は医者でいいの?誰?→→…答えっぽいものが次々ひっくり返る大人気ない博士のガチ対談で予定調和の外。対談という柔らかな語り口もあって、パラダイムシフトを易しく感じられる本だと思います。