『女子プロレスラー小畑千代――闘う女の戦後史』秋山 訓子

昭和戦後史で、男の格闘技の本はどこか社会の裏面のドロドロとした暗さがあるのに、これはスカっと明るく爽やか大冒険でものすごく面白かったです。いい本だったなあ。最近読んでた昭和モノがいろいろ重なってまさに戦後史の読み応え。

著者がピュアなまでに女子プロレスに思い入れたっぷりなのに、独りよがりも視野狭窄も感じないし、話題様々なのに散漫にならずに豊かな本という印象でものすごくよかったです。いい本だった。
社会の周縁としてのプロレスの辺境性、朝鮮やハワイといった被差別の構図に加えてもう一つ、女性差別がある現実なのに、レスラーという力を振るう主体となって、力が未来を切り開いてどんどん遠くへ行く大冒険。暴力と闇社会の陰惨と紙一重なのに、堕ちない。
プロレス自体がショーアップされた因縁にまるで権威があるかのようなタイトルにと、物語と歴史を作成することだけど、そんな作られた権威の胡散臭さとは無縁に、夢のように純粋な力の発露で健全なスポーツの女王として君臨し、それは現実の歴史では無いイマジネーションの範疇なのに、確固たる肉体を伴って夢が現実に降りてくる。私が感想書くとフワフワしちゃうけど、大ロマンはあっても夢フワフワじゃない、力が現実を結ぶ。男の格闘家の時に痛痛しいまでの空辣なロマン(それはそれでいいものだけど)みたいな破れかぶれとかじゃない。ちゃんとした老後がある…人生の一部。なんだか読んだことない感じの本でよかったなあ。