『海に生くる人々』葉山嘉樹

4月にプロレタリア小説。なぜにどうしてこんなチョイス・・・働く気がなくなるぜ・・・
搾取されている船員が、ストライキを計画する話でした。以下引用

それじゃ、勝手に下船して行ったらどうだったい。だれが、いつお前に、どうぞ下船しないでくださいと頼んだ!頼んだのはどっちだったか、よく考えてみろ」船長が言った。
「私たちは、どこへ行っても、いいところはないのです。だから、自分の『今』の生活をよりよくする方法をとるよりほかはないのです。この船ばかりへ日が照らないと言って、下船したところで、他の船でも同じことです。だから、自分の今いるところで、より良い条件の下に、生活しようとするだけなんです。」静かに彼は答へた。
「私たちは、どこへ行ったっていいところはないのです?え、それは、一体だれの責任だ。おれの責任だとお前は言いたいんだろう。おれは今も言ったじゃないか。だれが頼んで乗ってくれといったと、それに『より良い条件』の生活がしたかったら、なぜもっと、勉強して上の方へ、昇るようにしないんだ。自業自得を、人の責任におっつけるのは図々しすぎるぜ。」船長はこいつ一つ脂をすっかりしぼりぬいてやろうと考えた。そして、それからつ放す!と。
「ご忠告は、ありがとうございますが、勉強して上へ上っていく人間があまり多くなると、セーラーなんぞするものが、なくなるだろうと思いまして」(中略)
「私たちは勉強しても、船長はおろかボースンにも、なれないと思っているのです、ですから、なおさら、私たちは、今のままで、幾分でもいい条件の下で労働したいと思うのです。」

岩波文庫P244〜)

ちなみに、要求した条件は、「八時間労働+残業手当、賃金アップ、日曜休み、振り替え休日、傷病手当etc.」でした。
なんつーか、一九二二年の小説で、85年前の話題なんだけど、あんまこのへんはうまく進歩しなかったんだなぁーとか、思ってしまう私は、まずいぜ。8時間労働と残業手当って、どこの大企業だ。あと、この人たち、日雇いってことで、要は手に技術はあっても保険は不備だし、賃金安いフリーターみたいな身分・・・
社会主義がうまくいかないのって、社会に不満を持つ担い手さんがどうしても今の社会からの落伍者だったりせざるをえなくて、だもんでいろいろ手際要領悪かったりするんだろうけど、あんま仕事向かないっていうのは実際あってそれは上の人と交代するわけにもいかない適材適所なわけで、なんかもう、どうしたらいいもんか。どんより暗くなってました。
それは別として、船員生活とか対決あたりがかなり面白い小説でした。あと、比喩がすごくおもしろい。