『素晴らしいアメリカ野球』フィリップ ロス 中野 好夫 常盤 新平訳

大リーグ内幕のドキュメンタリー『マネーボール』と面白い野球の本枠でウロ覚えてて、小説のほう読んじゃった。小説だこれ。

原題はグレートアメリカンノベル。偉大なるアメリカ小説、そう、これはアメリカを描いた偉大な小説。アメリカを描く表現としての野球。
聖なる野球、男たちの野球、アメリカの歴史としての野球… WW2である架空の球団の崩壊を通して、人種やアメリカの州、政治、その他ごった煮のなんだかとても面白い小説。めっちゃ饒舌で面白くて、単純にもうエピソードが面白い。興味引かれるゴシップも野球だからこそだし、そもそも話題が野球なんで必ず試合は進行するしリーグもシーズンが進む。即因果応報みたいな、原因と結果が露悪的なほど近くあからさまな作りで、脳が全く疲れません。大部なんですが、それを全く感じない変幻自在と軽やかさ。飽きませんでした。

あと、私が個人的に蒐集してる、赤ちゃんプレイ描写がある文学でした。
もちろん、揶揄した表現なんですが。「男」を否定的に描くときに、なんだかこう、ものすごく決定的な切り札的な手なのかなあと思います。

放浪する最下位球団でさえ戦時中の男不足でもなければ採用しない、選手たる伝統的な男とはとてもいえない少年選手が、興業先の夜、先輩選手にイイところに連れて行ってもらう。期待に胸をふくらませたその先は、一人前の男だと自負する少年選手をを子ども扱いする、まるで普通の一軒家と美しいどこからどうみても母親然とした女性。頭の先からつま先まで坊や扱いされて、こんなこと違うと先輩選手への反抗と、先輩選手のこれがとても高級なサービスであるという自嘲ともからかい交じりともいえる説明、年をとりすぎているのに美しすぎる母親の冷めたとも優しさともとれるほとんど独白で他のお客である海兵隊の世話が疲れることが語られ、幕引きは成人向けオムツ配達車へのマスコミ突撃、実はこの高級住宅地はすべて赤ちゃんプレイのヤミ娼館であり、一斉に検挙される…
少年選手はどうやって逃げ出したんだっけな。なんだかめちゃくちゃなパワーとおかしみのある文章なんだけど、妙に切羽詰まった真への迫り方が寂しい。