『100歳の美しい脳』

修道女の老後を何百人も調べて、アルツハイマーの原因を探ったというプロジェクトについての本。エセ科学とか啓発本系っぽいタイトルですけど、ヒューマンなドキュメンタリーですごく面白かった。

尼さんってみんな同じ年に修道院に入ってから、出産しないし、喫煙飲酒も無しの同じ生活をしてる集団で、ものすごく純粋な統計データになりそうだから調査を始めよう、っていうその仮定自体に少し非人間的なにおいを感じるわけで、でも実際調査を始めると対人なのでものすごく人間的な関わりをすることになるんですね。エピソードの積み重ねが、すごく興味深い。それも何十年という長期にわたって続く。

今100才ってことは、100年前の19世紀に少女だったわけで、修道院に入るときに書く自伝がバラエティに富んでて本当面白かったです。で、この自伝も、調査対象になっていて、教育が脳を救うというよく言われていることについても、書いた文章を多角的に評価して、感情についての単語が多い、読んで豊かと感じる文章書いてるほうが、加齢による脳の退化が食い止められていることが多いような…とか、調査はまだまだ続くけど示唆に富んでます。老いてからでなく、若い時からの習慣が影響してるっぽいよと。
結論として、アルツハイマーは遺伝要素もあるっていうけど、それ以上に直接的には脳への外傷や精神的な病気とか、若い時から受けた脳の傷が、加齢によって症状が出てくる。という流れなのは結構確実っぽかったです。修道女みんながアフリカ伝道するような超人ではなく、いきなり慣れない仕事で超ストレス受けて、うつ病になったりする人もいる…。
あと野菜は食べたほうがいいっぽい。

老いた修道女の生活は、結構いいなあと思うものでした。教え子からずっと便りがあり、同じ信仰を共にする若い修道女のケアを受けて、神に召されるという信仰の先にある死。かなり幸福度の高い老後だと思いました。

科学とか脳とかの即物の物質性と、この本に記録された修道女の人生から心や意思といったものへの、両極端に思えたことが相関するのが面白かったです。