『オスカー・ワオの短くも凄まじい人生 』ジュノ・ディアス著

南米文学の中でも、レア気味なドミニカ文学。にして米文学。この前読んだ『バナナの世界史』のアメリカVS南米の大まかな知識くらいしか知らなくて、ドミニカについてはどこにあるかも知らないもんで、この本で初めて触れるドミニカ史でした。
恋するオタク男が主人公の、スコットピルグリムや、ナポレオンダイナマイトと、日本だったら電車男…と似た路線のようで違う。重層で複雑な文学でした。どの作品の男オタク主人公も目指すゴールであるところの恋の成就のファンタジーではある。これはもう普遍で根源で無批判でいいのかも。オタク的な熱狂のディティール(異常に大量のオタク用語注釈がある上、その素材感も絶妙にリアル)あって、現実もファンタジーも南米伝統のマジックリアリズムよろしく混淆する世界観なんで、もうめちゃくちゃだよ。つかみどころがない豊かさ。家族の物語、ドミニカ史を描く手段としてのオタク主人公、という図式でもありつつ、やっぱり主人公を描きたかったんだろうなあ。因果を突き抜けて、読後がさわやかでした。なんでこんなにスカっとするのかわからんいい話。

オタク的には全姉連に推薦したいくらい、ダメな弟を愛してくれるいいお姉ちゃんが出てきて、そこはファンタジーじゃないのね!という気分はありました。