「この世界の片隅に」を見て

映画館で観とこうかなと思って、ああ日曜日なら行けるかなーでも1800円だし映画の日まで待とうかな、でも終わっちゃうかもなあ、でグズグスためらってやっとチケット取ったら、なんかもうその時点でなんとなく気が重い。
娯楽の戦争モノじゃないの見に行くっていうのは超気が重い。ジャブで夜中にプライベートライアンアマゾンプライムで観出すくらい情緒不安定よ。冒頭の血なまぐさいとこ。
朝起きたら、超寒くてこの冬一番の寒波で外に出たくないけど、ニッセンで子供の靴下(10pセット半額790円をサイズ毎に×4 最強。しかもタグも金具もついてないただビニール袋に放り込んである親切仕様で最高。)通販したらついてきたセブンのビール100円引きクーポンが今日までだし外行かなきゃって、なんかもう気が重くて腰も足も重いっていう。
私こういうのに弱いんで、ダメそうになったとき用にビール持っていきました。センシティブなの。
あれですよ最近の漫画だけど、私と戦争モノの関係はほんとこれ。
ぼくは、せんそうをしらない。 第2話
http://leedcafe.com/webcomic/bokusen002/
これ!これなんだよ!誰かに利用されてるのに気がついても、正論だから相手に何も言えなくて、自分の気持ちじゃないのに相手のほうが年くっててエラいから沈黙のうちに曲げないといけないんです!って感じが超イヤでよう。このジャンル。去年克服すべくアニメの戦争童話集全部見ちゃったり、碑も読んだり見たり。このブログの戦争モノタグ見てくれ。この量。別に本書いたり仕事じゃないのに大量。そして迷いに迷った感想。
実は広島に人生の1/3住んでたこともあってわりと人生の呪いみたいになっちゃってて、いやそうじゃないだろっていう反抗で挑んでました。

で、
見てきました。凄まじい完成度でたしかに傑作。
すごいよ。まじで。
こんなん作れるんかっていう。
ハリウッド映画のすごいやつあるじゃん、もうあの路線ともイーブンだし、ヨーロッパ系のなんか芸術っぽい映画でもイーブンだし、間違いない傑作です。


オタクとして、あんまり声を大にして言えないことにはっていうか言うけどエロマンガが好きなんですよね。オカズにするんじゃなくてもうこれはエロいマンガ絵が見たいっていう趣味ですね。最近だとディビ先生好きです。
トレーラーを見たら、体が薄いかんじがググっといいかんじの貧相な猫背のエロそうな人妻で見なきゃという期待感がありました。意思薄弱な超エロい顔してるよ。どんな映画でもこの絵が動くの見れたらいいやっていう。尾野けぬじ先生みたいな線の細いエロさっていうか。
いやーすごいエロかったですよ。
江頭2:50の映画批評本が滅茶苦茶面白かったんで、オススメ作品を見たら江頭さんの女の好みを把握してしまった感あるんですが、あの「飢餓海峡」「奇跡の海」みたいなあの路線の女!あのどうしようもないダメなエロい女!わかる! っていう女でした。あの、愛の不条理ためてためてためこんで、ガガガッと距離詰めてくる女。
ものすごく生々しい。表現されたエロい絵ってファンタジーから来るのと、現実を素材にしたファンタジーの2方向あると思ってるんですが、グっとくる人妻のエロスでした。


自分が年くった女になりつつあるので、女の生活に興味があって、『口述の生活史―或る女の愛と呪いの日本近代 増補版』とか『洟を垂らした神』とかルポというか民俗学というか幸田文とか、昔の女の生活読むようになったんですね。最近。生活の描写すごい。知らない。すごい。家族関係とか、国文科だったんで、こういう日本の家族像とかわりと本読んだんですけど、すごい生々しい。あと仕事だけど、戦前の新聞を数年の間読みまくってたとかあるんですよ私。昔の風俗もそこそこに興味ありなんで、すごい絵で見られて面白かったです。
家事する人、会社員としての私は、ウワーっこの発狂しそうなほどトロい女!ワーカーとしては非効率極まりない役立たずでキエエエエって胃が痛くなってくるよ。はやく家事を片付けてえええ。
でも、子供の私というか、詩とか好きだった学生の頃みたいな私は、この幻視の素質に恵まれた巫女のような女性をいとしく思う。絵を描くっていう、現実を映す鏡のような性質の芸能。


あと、オールドな男オタクのスタイルに憧れるんで、わりと戦争映画とか戦争モノを娯楽として消費するの好きなんですけど、これもすごかった。呉の軍港一望できるワクワクするかんじ。と、超リアルな情景描写としての兵器。炸裂した破片のスピードの表現とかやばすぎる。船のスピードのリアルさっていうかスーっと動く感覚とか、動くのなんかこう絵じゃないの。アニメーションしてるの。


広島育ちなんで土地勘あるし教科書でスズラン灯とか写真見たことあるし、わかるんですよ。見たことあるものが。湯来とか可部のほうにまだ、あんなかんじの坂の農家あるなとか思うの。広島城とかさ街中の川がいっぱいある雰囲気とか。江波の寒い海辺というか河口というか水辺のあの空気とか。出てくる物わかる。お盆の紙の提灯は夏スーパーに売ってるの。そんな背景に、広島弁は懐かしいですね。私は「〜じゃのう」をよく言ったかな。「じゃねえ」はあんまり聞かなくて。キツくない広島弁ってやさしいねえ。っていうか私自身がネイティブ過ぎて「じゃけえ」とか意識に上らなかったかも。なんていうかリアル以上の人間の認識のリアル。作り手の意図とか作品の意味とかじゃなくて、リアルをそのまま見てたとしか思えない。


原爆を巡る言説は、読んでも読んでもキリがないんです。読めば読むほど知らないことある。『仲みどりを探す旅』読むまで原爆翌日に鉄道再開したってことは、まだ燃え盛る市中なのに働いた人間がいたってこと気が付かなかったし、水をくれっていう人に水をあげなかった後悔は多々読んでも、当時の看護婦さんが「気道熱傷がひどいから水をあげたらふさがって死ぬからあげなかった」っていうのは最近一人だけ読みまして、それが当時の認識なのかさかのぼっての後付けの記憶なのか、それはわからない。
Webでものすごい数読める。これとかさ。
アーカイブ】消えた家族、幸せは写真の中に
http://www.asahi.com/articles/ASH8G3QYSH8GUEHF006.html
悲惨に決まってるわけですよ。原爆の記事は。

この映画は1945年の広島の物語なので、悲惨は免れない。


30そこそこしか生きてないけどこういう多面性もってるわけで、そんな私が、情報量が多すぎて、映画鑑賞中にほかのこと全く考えられませんでした。
作品のこころざしが素晴らしいもので、映画の形式としてストーリー、映像美、アニメーションのすばらしさ、とにかく作品として傑作なんですね。作った人間がとても優しいとも素晴らしい能力だともクレバーだとも思って人間の善能のすべてを発揮して作られててすごいんですけど、最悪の人類史の事件を描いた作品でもあって圧倒。何も考えられない。
映画が終わって明るくなった場内は、完全な沈黙でした。ビニール袋やペットボトルの音さえしない静寂で、時が止まったかのような瞬間でした。そこそこ人入ってたんですけど、初めての体験でした。


本当にやりきれなくて、映画館でて寒空の下ビール飲みました。ビールもっててよかった。