『ナルシズム』中西信男

古本屋で立ち読みした、ふるーい新書。20年前の本ダヨー
サブタイトルが「天才と狂気の心理学 」なんだけど、ホモ蔑視だったり、古い。
でも、それを踏まえつつも、タメになる本でした。
いろんな創作動機に、ナルシズムっていう心理が絡んでるよという本。創作をするっていうのは、日常生活じゃないわけで、日常生活するにはあふれる心を使って創作するわけですよ。挙げられているのは、表現による自分が認められなくて自分がアイドルになって注目されたヒトラー、自分以外の全を認めない魯山人、作中の少年愛で幼い自分を愛して慰撫されたトーマスマン、自画像と自分の分身である娘を描き続けた岸田劉生とか、なんか、わかりやすく書かれすぎてて、しかもそれがありそうな話で怖いぜ。でも、あれー?な話も多い。
アイドルの話がおもしろい。アイドルを好きになるシステムは、成長の途上で、尊敬できる成長した自己の象が、両親ではなくなったときに取って代わる万能の自己象として好きになる。アイドルを愛してるのは、自分の理想化を愛しているので、ナルシズム。

表現っていう働きについて、強いナルシズムの心理と技巧をわけて考えてるのかな。伝達する技能が伴わないと、自分を愛する手段にとどまって狂気なだけ。例えば、絵の才能はなかったけど、アイドル、演説者としての才能があったヒトラー
すばらしい作品の作り手は、技能を駆使して自己を存分に愛することで、幼年に失ってしまった万能感を取り戻すし、そういう芸術をほめる人には万能感の片鱗が分け与えられて、その人々の称賛は芸術家の万能感を強化するぐるぐる連鎖。というわけで芸術と、観客は不可分で、なんとも悲しい永遠の連鎖なんですよ。芸術が普遍的なのは、時代が変わっても人間がある種の幸福を感じるシステムが変わってないってことなのかな。

技能の伴っていない作品が、時に人の心を強く打つのは、この、ナルシズムの心理な歯車がうまく噛みあってる時なんかねー、と思います。