『岩宿の発見 -幻の旧石器を求めて-』相沢忠洋

社会の教科書で名前出てくる、岩宿遺跡発掘した人の自伝。薄いんで、図書館でついでにたまたま手に取りました。
何した人って、それまで日本の始まりは縄文からだと思われてて、それ以前は大噴火やらで日本に石器時代はなかったと思われてたのを、石器発見して覆した人。

幼いころの思い出から終戦を19歳で迎えて、縄文への興味を持ち、戦後を在野で発掘中心の生活をして深く学問していって、遺跡発見後の壮年まで。そのへんの素人の農業青年が発見したっていう話ではなかった。雑学程度に開いたら、文章が意外に巧くて、世相の空気感あって面白かった。
普通のオッサンの自伝レベルって、見栄や自慢に紙数を割いて読む人間のことまで至らないもんで、出版されてるもんでも自伝要素あると我慢して読む嫌な部分だけど、この本には無い。こんな大発見したよって話なのに、人生の最初から始まる喪失と漂白に彩られる日々のためか、素直なんですよ。苦労の末の人生とはいえ、長唄の芸人の子に生まれて鎌倉で育ち、奉公に出て商売を重ねて人の機微を知り尽くしているので素朴じゃあない、けど人に媚びたところもスネたところもなく。自分で人間が嫌いなところあるって書くほど素直。
自分の人生では早々に失われた幸せな家庭の団らんを、遠い縄文の遺跡に求めるた話なので、世の栄華や成功ではなく、人の幸せについての話になっている。相当に編集者の手が入ってるだろうなっていうカッチリした構成なんで、読み物として優れた本でした。
これ、感想文の推薦図書になってたそうで、本文中に名指しであいつは嫌いだって言われた人、全国何万人の学生に嫌われたのか…