『口述の生活史―或る女の愛と呪いの日本近代 増補版』中野 卓

研究者向けっぽい体裁の本ですが読み物として、異常な面白さ。口述史では必ずといっていいほど参照文献に上がる一冊だとか。

おばあさんが語る自分の一生を書きとった著者による丁寧な丁寧な前書き。研究者であることに加えて自分が話を聞いている男であることを書き、続けておばあさんの口述があります。読みやすいストーリーにリライトではなくて、重複やバリエーションも採用して語るという現象を表現しようとしてる。こういう形で本として構成したのは見たことなかったです。
書かれていることがすべてではない。
コンテクストを読者が読み間違わないようにと文中にも非常に丁寧な注釈がついているんですが、これ、この著者が受け取ったコンテクストを読むという体験になってまして、二重三重に入り組んだ書籍だと思います。自分のことを「もう一人の登場人物である私」と表現する著者が自覚的。

事実の記録なんですが、脚色する人間の想像力を肯定して、文章として表現している。お婆さんの話のイベントそれ自体が読み物としてとても面白いんですけど、本の体裁になったときに生まれたカオスや余白がとても面白い一冊でした。

あと、昔は家族大事にしたとか大嘘だからな!!!!
もよくわかりました。家族問題は普遍の苦しみの根源だわ。
明治時代だって女は殴らない旦那さんのほうが好きだし、DVすれば嫁逃げるし、その後嫁さん世話する人いなくなるんだよっていう。