『海軍主計大尉小泉信吉』小泉 信三

私家版が、著者死後刊行。著者は経済学者にして慶応大学の学長。一人息子の戦死報を受けたときから、息子が生まれたときにさかのぼり、幼少の思い出、学校、家庭での話、戦地からの手紙…ものすごく淡々とした記録の文体が続いて、差しはさまれるごくごく抑えた自分の感想。
概要は↓
http://enaka.cocolog-nifty.com/soon/2011/01/post-b190.html

戦前の上流階級の若い夫婦が、戦争直前、戦中、日常を生きた記録でもあって、あくまでも日常の出来事。お父さんは仕事に行ってだんだん出世したり、子供が生まれて体が弱くて入院したり心配したり、成長したら引っ越ししたり、下の子も産まれて…
異常なできごとは何も無く、この時代をこの年齢で生きた人。就職するのと同じように自然に軍隊に入るし、そこには笑顔もあれば、友達の子どもが戦死したらお悔みに行き… 家庭内の符牒のようなごくごく狭い私的な会話を、既に失われているから読むことができる。短さもあいまって胸を打たれる。人間の一生。