恒川光太郎を全部

ふと読み返したデビュー作の『夜市』が好みだったんで、全部読みました。読みやすいんでついつい読んじゃいましたが、今も現役で書き続けてる作家さんの作品全部読むって初体験。

文学っぽい肌触りは、大人の都合に従わざるを得ない子供って図式書いたときに、ものすごく的確な描写で越境する瞬間があると思います。子供からのフィードバックが意外で胸を打つ。悪い人間の悪さは、これ実体験なんだろうなあ…それを受けとめるのが子どもだったりすると本当につらい。
また、不条理を怪異に還元するのもジャンルもの故なんだけど、怪異のあわいにある沖縄や架空の南国、古い日本のような世界観は魅力的。
同時にあるつくりごとっぽさ、Webのいい話系、しゃれこわ(しゃれにならない怖い話)みたいな、読みたいとこだけ抜き出したような作られた物語が鼻につく感覚もありました。でも、先は気になっちゃうよね。世界観とハマったときはすごくよかったです。
全部読んでみたら新ジャンル開拓が個性埋没気味なんで、下降に入ったような印象。でもこれ以上書くと自己模倣になっちゃのかな。好きな作品が読めてよかった。


↑巧い
『南の子どもが夜いくところ』
南の島を舞台にした連作短編。これは傑作扱いでいいと思う。ベスト。つくりごとっぽさが南の島に訪れた日本人っていう目線でバランスとれてて、どの短編も物語の魅力に満ちてる。生と死のあいまいさと世界の描写の美しさ、それが物語としてスラスラ読めてこれはいい本。

『草祭』
連作短編。町のとある場所を巡って、時代を超えて引き寄せられた人についての連作短編。陰鬱な話ではあるけど、悲劇ではなく不条理が人外の世界から来る、そちらへ行く、という往還になっていて不思議に読後感はさわやか。

『私はフーイー』
沖縄を舞台にしたホラー短編。別にグロいものは出てこないけど、社会や地域の隙間から闇が見え隠れする不安感がいい。つくりごとっぽさは、沖縄の距離感でジャンル小説の文体故なのかあまり感じなくて、これも面白かった。

『金色の獣、彼方に向かう』
連作短編。時代を超えてゆるくつながるので、独立した短編集とも。架空の伝承を軸に、人知の果てから往還する形式がよりスケールが大きくなってて読み応えありました。

『竜が最後に帰る場所』
短編集。収録作品に軽重はある。より奇想小説めいたどことなく非人間的なとぼけた味わいでユーモアといってもいいかもしれない。

『秋の牢獄』
短編集。読み物的で、ふしぎないい話より、人間の悪意に踏み込む割合が多くてホラー寄り。

『雷の季節の終わりに』
長編。でも連作短編風。夜市のように古い日本をイメージしたような世界が魅力的。短編のような投げっぱなしとも異世界に行きっぱなしとも許されるような解放感が作家の味と思っていたけど、長編故かオチはオチってうまく作られた小説と感じてしまいました。長編としてはいいのかもしれない。

『金色機械』
長編。章毎に切り替わる連作短編風の時代劇+α。時代劇でも世界観は魅力的。だけども、文学っぽさを感じる濃密な違和感とかた結末に行き着く感覚の独特さはだいぶ薄まって、なんか肌触りはふつうのエンタメ小説。最後まで読んでも面白い長編ではありました。

『スタープレイヤー』最新作。
どうしちゃったの。こんな出来の悪いなろう系異世界召喚モノ小説Webでタダ読めるし、続刊も読む気にもならんよ。本当どうしちゃったの。