『人はいかにして蘇るようになったか』

サイエンスの本。スピリチュアルじゃないよ。科学者イカれてんな!っていう純然たるサイエンス本。
すげーびっくりしたんですけど、胸部圧迫の心臓マッサージ+人工呼吸のセットって1960年に発表されて1970年半ばから広く病院で行われるようになったものだそうです。大昔でも溺れた人にフイゴで空気を吹き込むとか、馬の背中に乗せて駆けさせて胸部をリズミカルに刺激するとかとか、なんとなく呼吸と心臓を動かすことが死から引き戻すことに有効だとわかっても、セットでやって医学的に効果あるって広まったのは、ごくごく最近。昔の白黒テレビで医者が看取るシーンあったら、心停止しちゃったら「ご臨終です。」で、胸骨圧迫の心臓マッサージやらないってことだ。
その後も、数少ない成功した心停止からの復活すると脳損傷とか予後がすごく悪い時代が続いて、いったん死にかけた細胞を安全に復活させる方法が模索されて2008年と2010年に包括的なガイドラインがやっと出たりとか、新しい分野なんだそうです。死ぬことが、心停止すれば数秒で死ぬよっていう瞬間の現象だったのが、有効な手段がとられれば心停止後数時間でも復活するんで、死の判定についてほんの数十年くらいで凄まじい変化が起きていたっていう。当然、医療サービス格差や脳死判定など、死を宣告する基準について問題が出てくる。
「死が社会的なものであり、科学的なものではなかった。」
医学の進歩で心停止して脳がフラットになった状態から、もう一度心臓が動いて脳も動き出して蘇った人がいると、同時にそれを体験した人によるいわゆる臨死体験ってものが、蘇生数の増に応じて大っぴらに出てくるわけです。ここまで踏み込む本。心停止した後になにかが起きている、ことについて感情を排して医療と科学のアプローチしてく。すごいの。上に浮かんで体を見下ろしてるっていう話が多いから、死にそうな患者の天井に棚つけて絵を置いておいて、心停止後にもしも蘇生したら(15%くらい…)後で何の絵があったか訊くの。科学者イカれてんな!
書き切れないけど、全部新しい知識でした。科学ライターの本じゃなくて、救命医の書いてる本なので硬いけど、超面白い。
個人的には、私は唯物論者で死んだら何もかもおしまいと思っててそれが生きるよ寄る辺で、臨死体験も脳の誤作動で最期に幸せボーナスだと思ってたんだけど、どうも心停止で脳が全く動いてないのになんか起きてるらしいってここまで書かれると大ショックだよ。