『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』三浦 英之

満州建国大学の名前全く知りませんでした。何があったのか、何故知られなかったか、生徒の人生という事実そのもので記録。人生を選べる人って恵まれた能力とか立場があるし、その選ぶという行為のために能力を賭けるのが生きる価値のように思うっていう、古典的な個人主義っぽい世界観をよしとして私は生きていますが、天災のように自分の意志ではどうにもならない時代の流れを実際に読むと恐ろしさと無情さと、それでも続く人生の不条理の現実。悲惨すぎること、美しすぎること、そのどちらもが何の理由もなく一人の人生にある。

満州国で次世代の幹部育成のために東大並みのスーパーエリートを集めた大学があり、五族協和を目指して、日本人と、半数は中国人、韓国人、台湾人、ロシア人が一つ宿舎に寝起きをして、最高の教育を受けて、当時全く異例に言論の自由が認められ、各々の民族の理想に燃えていたところを、日本の敗戦により運命が変わる。
すごい語学力とリーダーとして優れた能力がありながら、この大学に入ったことで不遇の人生を送った人たち、でもその誰もが、若い一瞬の輝きとしてこの大学生時代を記憶している郷愁の普遍と、国や制度や時代など大きな流れに流されたどうしようもないその後のやりきれなさ。でも、彼らは間違いなく、世界をよりよいものにしようと信じていた。
梗概はこれがまとまってるhttp://webronza.asahi.com/culture/articles/2016010800002.html

この大学の存在を語ることが各国の卒業生達にさらなる不幸が及ぶために一般に知られず、もう当事者たちの人生が終わるからこそ、この本で知られるようになるというのもまた苦い。でも純粋さ、若さ、新しい都市、自由、荒野、国の始まりと全能の若さとが重なった良い思い出が本当に美しい。そんな印象が残るタイトルがいいなあ。儚い。